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事故物件

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「広っ!!」
「かつて俺と母親が住んでいた居住区だ。ユズキもいるんだ。広いし丁度いいだろ?」

 セオドアの言葉に、スライムだった柚希がピョンと俺の肩から飛び降りて、人間の姿になる。

「でも、セオドア様がお母様と住んでた場所ってことは、本来お妃様とその子供が住む場所なんじゃないの?」

 セオドアの目が泳いだ。
 うん……これは何かある。

「セオドア、正直に吐いた方が後が楽になるぞ」
「俺、嘘なんか吐いてねぇぞ」
「どうせ後から噂話で耳に入るくらいなら、セオドア様の口から説明してくれた方がヴァニタスも疑心暗鬼に陥らないと思うよ」

 柚希の追撃にセオドアは「うー」とか「あー」とか唸りながら……最終的には観念した。

「この部屋、人が死んでるんだ」
「お兄さん知ってる。つまり前世でいう事故物件というヤツだ」

 うん、俺も知ってる。
 まさか転生してから、剣と魔法のファンタジー世界で事故物件を引き当てるとは思わなかった。

「まぁ……地下水脈のアンデッドモンスターを一掃して、アンデッドモンスターの親玉のメモリアと仲良くなってたお前なら問題ないだろ」
「いや、全然別問題だろ」

 俺が訝しげにセオドアを見ると、セオドアはまた「うー」とか「あー」とか唸りながら頭を掻いた。

「具体的には何が起きたの?」

 柚希の言葉に、セオドアの顔から表情がなくなる。
 真顔というより、何処か血の気の引いたような顔。

「セオドア?」
「…………」
「おい、セオドア!!」
「あ、あぁ……すまん」

 セオドアにしては歯切れが悪い。
 何だか心配になってくる。

「死んだのは、兄なんだ」





 まず、正妃であるセオドアの母親が毒殺された。
 犯人は側妃の一人で、セオドアの母親に嫉妬して殺したという遺書を残して自死した。
 だが、セオドアの父親……先々代の国王は、セオドアの兄ソルティードの母親である側妃が元凶ではないかと睨んだ。
 だからセオドアを同盟国クレイヴィア王国に避難させた。
 この時護衛として同行したのがスヴェン・マードック。
 スヴェンはマードック侯爵家の三男らしい。
 フィニスが同行するという話も出たらしいが、フィニスはティアニー公爵家の嫡男だ。
 ラスティル王国を離れ、他国に……となると問題がある。
 より自由に行動でき、剣の腕も立ち、セオドアに歳も近いスヴェンが護衛にという話になったらしい。

 セオドアがスヴェンとクレイヴィア王国に避難した後、ソルティードがとんでもない事件を起こした。
 父親である先々代国王と母親である側妃、兵や使用人を斬り殺すと……。

「何故かこの部屋の、セオドアの部屋で自死していたと……」

 とんでもない事故物件じゃねぇか!!
 前世の現代日本の事故物件が可愛く見えるわ!!

「…………すまない」

 そんな顔で言うなよ、セオドア。
 いつものふてぶてしいお前は何処行ったよ。
 お前がそんなんじゃ文句のひとつも言えねぇじゃねぇかよ……。



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