9 / 112
ヴァニタス・アッシュフィールド10歳
05
しおりを挟むアッシュフィールド本邸と俺が住む屋敷を結ぶ地下通路は、地下水脈に沿って作られている。
それはかつて、ラスティルが災害や飢饉、疫病被害に見舞われた際、アッシュフィールド家が若い娘を地下水脈の奥の奥、湖に沈める役割を担っていたからだそうだ。
しかし、ラスティル王国が成立すると、その風習は廃止された。
しばらくは地下通路として使用されたがゴーストやアンデッドモンスターが多数出現する為、出入り口を封印し、存在しなかったことにした……こんな経緯があるらしい。
「ところでスピルス、何だその子供は」
スピルスの来訪に合わせて地下通路の攻略について話を詰めよう……そうスヴェンと段取りを立てていたのだが、その日スピルスは幼い少年を連れてきた。
「この子ですか? 白兵戦担当ですが、何か?」
俺とスヴェンは顔を見合わせる。
「白兵戦担当は私が担いますとお伝えしましたよね、スピルス様」
あ、やべ。
スヴェン苛立ってら。
「えぇ、ですが良い機会ですから実際の戦闘を体験させたいと思いまして。まだ7歳ですが、将来有望なんですよ」
スピルスは怯まずニッコリと笑う。
「7歳はダメだろ流石に」
「本来であれば9歳や10歳もダメだろうと私は思いますがね」
「さぁ挨拶、挨拶」
スヴェンの営業用の笑顔が引きつっているが、スピルスは意にも介さずポンポンと子供の背中を叩き、挨拶を促す。
短い銀髪に青い瞳の少年は、俺とスヴェンに深々と頭を下げた。
「俺の名前はユスティート・ティアニー。このような姿だが騎士見習いだ。特にスヴェン殿、実戦についてご指導いただけたら幸いだ」
真面目か。
い、いや。
問題はそこではなく……。
「ユスティート・ティアニー!?」
ゲーム「アルビオンズ プレッジ」のプレイアブルキャラクター。
未来のラスティル王国騎士団長にして、未来のラスティル国王。
そして、ゲーム内でモブ敵である俺を殺す男。
英雄の卵がそこにいた。
「ヴァニタスはユスティートのことをご存じなのですか?」
「あ、いや……」
だよな。
本来、俺が知っていていい情報じゃないよな。
「ヴァニタス様、貴方はまだ懲りずに隠し事をしていますね。あとでじっくり尋問しますので、しっかりとゲロってくださいね」
おいこらスヴェン。
お前最近本性が隠せてないぞ……隠す気ないのか?
ゲームであることを伏せて、話すしかないか。
信じる信じないは、皆に任せるとして。
「尋問されなくても……今話すよ。先に言っておくが、これは予言とか予知とかそういうモンじゃねぇし、俺にそんな能力なんてねぇのは、スピルスが一番良く知ってるよな? これから俺が話すのは……7歳の時に記憶を失う代償に見た夢の話とでも思って欲しい」
8
お気に入りに追加
279
あなたにおすすめの小説
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
王太子殿下は悪役令息のいいなり
白兪
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」
そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。
しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!?
スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。
ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。
書き終わっているので完結保証です。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
涙の悪役令息〜君の涙の理由が知りたい〜
ミクリ21
BL
悪役令息のルミナス・アルベラ。
彼は酷い言葉と行動で、皆を困らせていた。
誰もが嫌う悪役令息………しかし、主人公タナトス・リエリルは思う。
君は、どうしていつも泣いているのと………。
ルミナスは、悪行をする時に笑顔なのに涙を流す。
表情は楽しそうなのに、流れ続ける涙。
タナトスは、ルミナスのことが気になって仕方なかった。
そして………タナトスはみてしまった。
自殺をしようとするルミナスの姿を………。
仮面の兵士と出来損ない王子
天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。
王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。
王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。
美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
ハッピーエンド保証!
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。
※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる