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ヴァニタス・アッシュフィールド10歳

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 アッシュフィールド本邸と俺が住む屋敷を結ぶ地下通路は、地下水脈に沿って作られている。

 それはかつて、ラスティルが災害や飢饉、疫病被害に見舞われた際、アッシュフィールド家が若い娘を地下水脈の奥の奥、湖に沈める役割を担っていたからだそうだ。

 しかし、ラスティル王国が成立すると、その風習は廃止された。
 しばらくは地下通路として使用されたがゴーストやアンデッドモンスターが多数出現する為、出入り口を封印し、存在しなかったことにした……こんな経緯があるらしい。


「ところでスピルス、何だその子供は」

 スピルスの来訪に合わせて地下通路の攻略について話を詰めよう……そうスヴェンと段取りを立てていたのだが、その日スピルスは幼い少年を連れてきた。

「この子ですか? 白兵戦担当ですが、何か?」

 俺とスヴェンは顔を見合わせる。

「白兵戦担当は私が担いますとお伝えしましたよね、スピルス様」

 あ、やべ。
 スヴェン苛立ってら。

「えぇ、ですが良い機会ですから実際の戦闘を体験させたいと思いまして。まだ7歳ですが、将来有望なんですよ」

 スピルスは怯まずニッコリと笑う。

「7歳はダメだろ流石に」
「本来であれば9歳や10歳もダメだろうと私は思いますがね」
「さぁ挨拶、挨拶」

 スヴェンの営業用の笑顔が引きつっているが、スピルスは意にも介さずポンポンと子供の背中を叩き、挨拶を促す。
 短い銀髪に青い瞳の少年は、俺とスヴェンに深々と頭を下げた。

「俺の名前はユスティート・ティアニー。このような姿だが騎士見習いだ。特にスヴェン殿、実戦についてご指導いただけたら幸いだ」

 真面目か。
 い、いや。
 問題はそこではなく……。

「ユスティート・ティアニー!?」

 ゲーム「アルビオンズ プレッジ」のプレイアブルキャラクター。
 未来のラスティル王国騎士団長にして、未来のラスティル国王。
 そして、ゲーム内でモブ敵である俺を殺す男。
 英雄の卵がそこにいた。

「ヴァニタスはユスティートのことをご存じなのですか?」
「あ、いや……」

 だよな。
 本来、俺が知っていていい情報じゃないよな。

「ヴァニタス様、貴方はまだ懲りずに隠し事をしていますね。あとでじっくり尋問しますので、しっかりとゲロってくださいね」

 おいこらスヴェン。
 お前最近本性が隠せてないぞ……隠す気ないのか?

 ゲームであることを伏せて、話すしかないか。
 信じる信じないは、皆に任せるとして。

「尋問されなくても……今話すよ。先に言っておくが、これは予言とか予知とかそういうモンじゃねぇし、俺にそんな能力なんてねぇのは、スピルスが一番良く知ってるよな? これから俺が話すのは……7歳の時に記憶を失う代償に見た夢の話とでも思って欲しい」


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