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殿下!?
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街道沿いに揺れる、季節花の姿を横目に、地平線で途切れた道の向こう側を目指して、烈たちは目的のフライブルク砦を目指していた。
「フライブルク砦はどういうところなんだ?」
烈がミアに聞くと、ミアは考え込むように言った。
「どういうところと言われる難しいな。長年、ドイエベルン側の南方の守備の要として設置してある、堅牢な軍事拠点だ。そこを守る鉄百合団も精強の騎士団で、団長のクリスは王国でも五指に入る剣士だ」
「そこにミアの知り合いがいるのか?」
「......ああ、そうだ」
ミアは少し言い淀んだようであった。
(快活な、はっきりとしたミアには珍しいな)
ラングたちも同じことを思ったようで、烈が顔を向けると、皆一様に怪訝そうな顔をしていた。だが、脚を止めるほどのことでもない。烈たちはミアに先導されるまま、街道沿いを馬に乗りながら歩いていた。
太陽が中天に差し掛かろうとした頃だろうか、遠くから何かがこちらへ駆けてくるのが見えた。烈たちは念のため警戒態勢に入った。
(近づいてくるな。なにやらこちらへ叫んでいるようだが......)
近づいてきて段々と姿が見えてきた。
(どうやら、どこかの騎士のようだな。20人はいる。皆、胸に---あれは楓か? 葉っぱの紋章をつけているな)
烈たちは騎士たちのとの距離が残り、30歩というところで、剣に手を掛ける。だが、彼らの心配は杞憂に終わった。彼らはこちらへ近づくと、馬上から降り、跪いた。そして隊長格らしき先頭の男が言った。
「馬上にて失礼いたします。もしや、ミネビア・アーハイム・キャンベル・ロンバルト殿下にあられますでしょうか?」
烈は耳の穴をほじりたくなった。
(聞きなれない名だ。しかも'殿下'?)
「その通りだ」
烈の困惑とは裏腹に、ミアは頷いた。どうやら先ほどの名前らしきものはミアのことを言うらしい。
「おお、なんということでしょう。お待ちしておりました。殿下」
「私を殿下という前に、貴様らが名乗るのが筋ではないか?」
「はっ! 申し訳ありません! 自分はゴードウィン家所属の領主軍の隊長を務めます、マイコンというものです! 以後お見知りおきを!」
「ふむ。それで、そのマイコンが私に何の用だ?」
「はっ! 当方の主---ゴードウィン男爵様がぜひ、殿下を迎え入れられたいとのことです。僭越ながら、是非お立ち寄りの方をお願いいたします」
「ふむ......よく私がこの国に入ったことがわかったな」
「我らは亡き先王陛下に国境沿いの守備を任せられるものであれば、常にそこに目を光らせておくのは当然かと。さらに言えば、かのペルセウスと兄王陛下の専横には口に出されるのも憚られるときがあり、ゴードウィン様としても歯がゆい思いをしておりましたゆえ」
「ほう? 彼の者がそのような憂国の壮士であるとは相知らなんだ。そういうことであれば、ぜひ立ち寄らせてもらおう」
「ありがたき幸せにございます! では、私が先導させていただきますので、お付きの方々も含め、付いていただけますでしょうか?」
「相分かった。頼む」
「ははっ! では!」
そういって、マイコンは馬を来た道とは逆方向に向け、パカパカと歩き出した。ミアも同じように歩き出すので、烈たちもついて行かざるを得ない。一度、ミアはこちらへ目を向けた。その目は「後で説明するから、今は黙っていてくれ」と雄弁に語っていた。
「フライブルク砦はどういうところなんだ?」
烈がミアに聞くと、ミアは考え込むように言った。
「どういうところと言われる難しいな。長年、ドイエベルン側の南方の守備の要として設置してある、堅牢な軍事拠点だ。そこを守る鉄百合団も精強の騎士団で、団長のクリスは王国でも五指に入る剣士だ」
「そこにミアの知り合いがいるのか?」
「......ああ、そうだ」
ミアは少し言い淀んだようであった。
(快活な、はっきりとしたミアには珍しいな)
ラングたちも同じことを思ったようで、烈が顔を向けると、皆一様に怪訝そうな顔をしていた。だが、脚を止めるほどのことでもない。烈たちはミアに先導されるまま、街道沿いを馬に乗りながら歩いていた。
太陽が中天に差し掛かろうとした頃だろうか、遠くから何かがこちらへ駆けてくるのが見えた。烈たちは念のため警戒態勢に入った。
(近づいてくるな。なにやらこちらへ叫んでいるようだが......)
近づいてきて段々と姿が見えてきた。
(どうやら、どこかの騎士のようだな。20人はいる。皆、胸に---あれは楓か? 葉っぱの紋章をつけているな)
烈たちは騎士たちのとの距離が残り、30歩というところで、剣に手を掛ける。だが、彼らの心配は杞憂に終わった。彼らはこちらへ近づくと、馬上から降り、跪いた。そして隊長格らしき先頭の男が言った。
「馬上にて失礼いたします。もしや、ミネビア・アーハイム・キャンベル・ロンバルト殿下にあられますでしょうか?」
烈は耳の穴をほじりたくなった。
(聞きなれない名だ。しかも'殿下'?)
「その通りだ」
烈の困惑とは裏腹に、ミアは頷いた。どうやら先ほどの名前らしきものはミアのことを言うらしい。
「おお、なんということでしょう。お待ちしておりました。殿下」
「私を殿下という前に、貴様らが名乗るのが筋ではないか?」
「はっ! 申し訳ありません! 自分はゴードウィン家所属の領主軍の隊長を務めます、マイコンというものです! 以後お見知りおきを!」
「ふむ。それで、そのマイコンが私に何の用だ?」
「はっ! 当方の主---ゴードウィン男爵様がぜひ、殿下を迎え入れられたいとのことです。僭越ながら、是非お立ち寄りの方をお願いいたします」
「ふむ......よく私がこの国に入ったことがわかったな」
「我らは亡き先王陛下に国境沿いの守備を任せられるものであれば、常にそこに目を光らせておくのは当然かと。さらに言えば、かのペルセウスと兄王陛下の専横には口に出されるのも憚られるときがあり、ゴードウィン様としても歯がゆい思いをしておりましたゆえ」
「ほう? 彼の者がそのような憂国の壮士であるとは相知らなんだ。そういうことであれば、ぜひ立ち寄らせてもらおう」
「ありがたき幸せにございます! では、私が先導させていただきますので、お付きの方々も含め、付いていただけますでしょうか?」
「相分かった。頼む」
「ははっ! では!」
そういって、マイコンは馬を来た道とは逆方向に向け、パカパカと歩き出した。ミアも同じように歩き出すので、烈たちもついて行かざるを得ない。一度、ミアはこちらへ目を向けた。その目は「後で説明するから、今は黙っていてくれ」と雄弁に語っていた。
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