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集団の武
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真ん中の兵士、禿頭の男はルルの矢を冷静に槍で弾き飛ばした。ぎぃいんっと槍の刃が震える音が聞こえる。
「ほう?」
将軍用の特等席で見ていたウルライヒ将軍は何やら驚いた声をあげた。
「すさまじい弓だな。確か彼女は......」
「モニカ王国の姫君ですな。彼の国との大戦で我らの精鋭を50人、その弓で屠ったという......」
傍らに立つモラントが答えた。
「なるほどな、納得じゃわい。撃つと決めてから、実際に撃つまでの時間がほぼなかったにもかかわらず、見事に眉間を正確に狙っていた」
「はい。戦場の、荒れた展開であれば防ぐことは難しいでしょうな」
「『風将』殿とどちらが上手いかの?」
「流石に、一矢の威力、正確性はミアラル将軍の方が上かと。しかし彼女の強みは......」
「うむ、'目'じゃな。遠くのもの、風の流れ、全体の配置、戦場がよく見えておるわ」
「天才ですな」
「まさに! だが、その天才を破るのが我が軍の集団の'武'というものよ!」
「将軍の三柱陣---三人一体となり、守と攻を同時に行う陣形---さすがの彼らも容易に崩せぬかと」
モラントの言う通り、烈たちは攻めあぐねていた。最初の矢は、真ん中の兵士に弾かれ、その隙を狙った、烈とラングの攻撃は両側の二人に対処された。
二人は一度下がって、ルルの下に戻ってきた。その間も地将の兵士たちはじりじりと間合いを詰めてくる。
「ちっ! 深入りすれば、真ん中の兵士がこちらを狙ってきやがる!」
「ああ、どこから崩せばいいのか......まるで阿修羅だな」
「アシュラ? そりゃなんだ」
「俺の国の神様さ。三面六臂の武の神様。三人と戦っているのに、まるで一人とやっている気分だ」
「確かにな。一人崩せれば変わるんだが」
「ルル! 準決勝で見せてくれたあの技はできないか? 三方向から矢が飛んでくるやつ」
「『飛燕』のことですか? できますけど、威力が高くないので、あの重装鎧にはあまり意味がないかもしれないですよ?」
「構わない、一瞬隙を作ってくれれば、俺とラングがこじ開けて見せる」
「おいおい、俺もか?」
「できるだろ?」
烈が挑戦的な目でラングを見つめた。ラングは頬をポリポリと掻いた。
「さてな? だが、やるしかないんだろう?」
「ははっ。ルルいけるか?」
「はい! いきます!」
ルルは上空に矢を放った。三人の兵士は思わずその矢を見つめる。意図を計りかねて、ルルに向くのと、ルルが第二射、第三射を放つのは同時であった。
「ぬっ? これは?」
ウルライヒ将軍が意図を察して前のめりになる。第三射はまっすぐ、真ん中の兵士を捉え、第一射は第二射に当たり、方向を変えて、それぞれ両側の兵士を襲った。
「なんと!!? まさに神技!」
モラントも思わず、感嘆の声をあげる。だが、三人の兵士たちは冷静だった。それぞれ自分に飛んできた矢を冷静に叩き落す。
「十分だ」
どこからともなく、烈の声が聞こえた。三人がどこから聞こえたのか探したが、既に遅かった。烈は下から斬り上げて、右の兵士を吹き飛ばし、いつの間にか背後に回っていたラングは、左の兵士を静かに昏倒させた。そして、どうしようもないと悟った真ん中の兵士は、降参といった風で、両手を挙げた。
「それまで!」
モラントの止めの声が聞こえる。烈とラングはルルに向かって、よくやったと親指を立てた。ルルは自分が力になれたことを喜んで、花のようににっこりと笑った。
「ほう?」
将軍用の特等席で見ていたウルライヒ将軍は何やら驚いた声をあげた。
「すさまじい弓だな。確か彼女は......」
「モニカ王国の姫君ですな。彼の国との大戦で我らの精鋭を50人、その弓で屠ったという......」
傍らに立つモラントが答えた。
「なるほどな、納得じゃわい。撃つと決めてから、実際に撃つまでの時間がほぼなかったにもかかわらず、見事に眉間を正確に狙っていた」
「はい。戦場の、荒れた展開であれば防ぐことは難しいでしょうな」
「『風将』殿とどちらが上手いかの?」
「流石に、一矢の威力、正確性はミアラル将軍の方が上かと。しかし彼女の強みは......」
「うむ、'目'じゃな。遠くのもの、風の流れ、全体の配置、戦場がよく見えておるわ」
「天才ですな」
「まさに! だが、その天才を破るのが我が軍の集団の'武'というものよ!」
「将軍の三柱陣---三人一体となり、守と攻を同時に行う陣形---さすがの彼らも容易に崩せぬかと」
モラントの言う通り、烈たちは攻めあぐねていた。最初の矢は、真ん中の兵士に弾かれ、その隙を狙った、烈とラングの攻撃は両側の二人に対処された。
二人は一度下がって、ルルの下に戻ってきた。その間も地将の兵士たちはじりじりと間合いを詰めてくる。
「ちっ! 深入りすれば、真ん中の兵士がこちらを狙ってきやがる!」
「ああ、どこから崩せばいいのか......まるで阿修羅だな」
「アシュラ? そりゃなんだ」
「俺の国の神様さ。三面六臂の武の神様。三人と戦っているのに、まるで一人とやっている気分だ」
「確かにな。一人崩せれば変わるんだが」
「ルル! 準決勝で見せてくれたあの技はできないか? 三方向から矢が飛んでくるやつ」
「『飛燕』のことですか? できますけど、威力が高くないので、あの重装鎧にはあまり意味がないかもしれないですよ?」
「構わない、一瞬隙を作ってくれれば、俺とラングがこじ開けて見せる」
「おいおい、俺もか?」
「できるだろ?」
烈が挑戦的な目でラングを見つめた。ラングは頬をポリポリと掻いた。
「さてな? だが、やるしかないんだろう?」
「ははっ。ルルいけるか?」
「はい! いきます!」
ルルは上空に矢を放った。三人の兵士は思わずその矢を見つめる。意図を計りかねて、ルルに向くのと、ルルが第二射、第三射を放つのは同時であった。
「ぬっ? これは?」
ウルライヒ将軍が意図を察して前のめりになる。第三射はまっすぐ、真ん中の兵士を捉え、第一射は第二射に当たり、方向を変えて、それぞれ両側の兵士を襲った。
「なんと!!? まさに神技!」
モラントも思わず、感嘆の声をあげる。だが、三人の兵士たちは冷静だった。それぞれ自分に飛んできた矢を冷静に叩き落す。
「十分だ」
どこからともなく、烈の声が聞こえた。三人がどこから聞こえたのか探したが、既に遅かった。烈は下から斬り上げて、右の兵士を吹き飛ばし、いつの間にか背後に回っていたラングは、左の兵士を静かに昏倒させた。そして、どうしようもないと悟った真ん中の兵士は、降参といった風で、両手を挙げた。
「それまで!」
モラントの止めの声が聞こえる。烈とラングはルルに向かって、よくやったと親指を立てた。ルルは自分が力になれたことを喜んで、花のようににっこりと笑った。
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