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番外編ですよ。

7: 賢弟、目が醒める。

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「いやいや、おかしいよ!」

ガバリ、と僕は起き上がりながら独り言ちた。

甘いものから肉からお茶やミルクまで、鱈腹食べて鱈腹飲んで、ぐっすり眠った僕は起床と同時に違和感に気付いてしまった。

「全く、いつから自分が要らない子だと思ってたんだ??有り得ない!迂闊すぎるよ僕!まんまと伯父様に洗脳されるなんて!」

何だかんだ言ってまだ子供だったって事だな。
うっかり洗脳されかけていた甘い自分にぷりぷり怒りながら僕はベッドから飛び降り、バスルームへと飛び込んだ。

戒めと思って冷たい水でバッシャバシャ勢い良く顔を洗い、フェリたん仕込みのクリンナップで水気を吹っ飛ばす。

キンキンキリリと冷えた頭で考えれば、うっかり尊敬仕掛けていた伯父様が意外とチンケな小物だったって事が良く判った。危ない危ない。

伯父様は、トライアイアンの血をひいた僕が超優秀な子になって、アーサーが没落させるであろうムンストーンを吸収し、国一番栄える家にすることを夢見ている様だが、申し訳無いが、僕は伯父様の教育方針じゃ秀才止まりだと思うし、アーサーはムンストーン家の当主として持つべきものはちゃんと持ってるから没落なんかしない。

くぅぅ、幼心をいつの間にかねじ曲げられかけた事、許さないからな!

逆にトライアイアンをムンストーンに吸収してやる!養子になって爵位貰ってからアイアンムーンとかに改名してやる!フフフ…。

後々、トライアイアンがムンストーンの隣で、気候や地質が似てるにも関わらずバターや小麦なんかの農作物が美味しくない理由も判っちゃったんですけど!僕、判っちゃったんですけど!!

原因は、農業に対する意識の違い。リスペクトが足らないんだよ、トライアイアンは。

ムンストーンは、自分達は地方の田舎貴族だと思ってる。
それは時に自嘲にも聞こえるけど、僕達はそれを是としている。

それは僕達の誇りだ。穀倉という自覚だ。

だからこそ、皆しょっちゅう領内を彷徨いてる。特に視察のつもりはなくても、彷徨けば、「精が出るね」「お疲れ様」なんて領民に声をかけるし、問題には直ぐ気付く。
領民も、そうなれば励みになるし、問題も直ぐに何とかして貰えるという安心感から、仕事に専念出来る。
ムンストーンの民は皆、自分がこの穀倉の○○を担ってるんだという誇りを持ってる。

それが努力になり、味や品質になる。

一方、トライアイアンは王都に憧れる地方貴族だ。

元々、多くの功績を残し、褒章として拝領した魔術師からなる一族で、王立魔術師団員も何度か輩出しているせいか、一族全員から王都で立身出世したい!という想いが滲み出てる。

そして、その志向は領民にも伝播し、皆王都の華やかな生活に憧れ、魔術師に憧れ、文官などのホワイトカラーを目指す。
農民の子が、農民になりたくなくて一生懸命勉強する。

結果、トライアイアンでは農業とはそれしか出来ない者がやる、何処か卑しい職のような認識になり、落ちこぼれ達がやっつけ仕事で、古い農具と古い知識で細々と行う事になる。

それでも肥沃な土地なので、それなりの収穫にはなる。だが、味も品質も量もそれなりだ。

ムンストーンでは農民の子も勉強は大事、と勉強するが、勉強が好きになる子の大半が農業に活かしたいと考えるし、別の道に進む子も、自分に向いてないとは思っても、農業を卑しいとは考えない。
この違いはかなり大きい。

伯父様は、ムンストーンのバターや小麦は特別、みたいな風潮が嫌いみたいで、食卓には必ず自領のバターや小麦が乗り、ムンストーンみたいな品質にしたいと考えているようだった。

うっかり伯父様を尊敬しかけていた僕は、ムンストーンの農作物の美味しい理由が判れば伯父様に報告したり、即座に改革に取り掛かろうと思っていたけど止めだ止め。
僕が爵位を継いでから一気に改善してやる!フフフ、ハハハ…

「アーッハッハッ「お早うございます。坊っちゃん。」ハひっ」

思わず洩れた高笑いにガチャリと侍従が入ってきて、僕は文字通り飛び上がった。



そーだった。

ここはムンストーン。家族も使用人も、遠慮無く入ってくるよ。
勿論、客人にはそんなことしないけどね…。





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