本編完結【R18】地味すぎる転生悪役令嬢、攻略対象と関わらずに…俺様ヤンキー公爵に絡まれる。Why？

後期！

186: 地味令嬢、夜会イベントに遭遇、ヤンキーは静観を悔やむ。

「動くと御自慢のお顔まで傷付けちゃいますわよ？」

「貴方みたいな娼婦が、学園とは言え、
　夜会に出ようなど烏滸がましいと思いませんこと？
　どうしても出たいのでしたら、
　貴方に相応しいドレスにしてあげますわ♡」

「娼婦はもっと肌を露にしませんと、ね♪」

「キャーー！イヤァー！」

口々に悪役らしい事を良い、魔法の杖を構える令嬢達。
恐怖の余りヒロインが悲鳴をあげる。

アカン！このままじゃぁ！





『フエェックショーーイ！！どっこーーい！！』


ヒロインと悪役令嬢の中心の空間に、爆音でアーサーのくしゃみが炸裂する。

音とは、空気の振動で発生する。

私が見よう見まねで使える風魔法で、
アレックスのガチガチ結界の外に発生させる事が出来るのはこれくらいだった。

咄嗟に再現できたのは、良く屋敷のあちこちから聞こえてきたアーサーの超絶デカイくしゃみの音だった。
もっと他に無かったのか、と思うけど、まぁ、仕方ない。
咄嗟だし。

すぐ近くで男の大声がしたせいでパニックになった令嬢達は散り散りになって逃げていった。



ホッとしたのも束の間、
へたり込んだヒロインの方に何かアレックスが術式を展開したと思ったら、
凄い形相で振り返り、手首を掴まれて叱られた。

「フェロー！理由は知らんがアイツ等と関わりたくないんだろう！？
　なら、魔力痕跡を消せる様になるまでは魔法は使うな！
　ヒロインは、ほっといてもすぐに助けが来たんだ！！」

そう、本来、ヒロインはスカートがちょっと？ズタズタと破けた位で助けられる。

今も階下で、ヒロイン大丈夫か！？と駆けつける青年の声と、
複数の足音がバタバタと聞こえる。

そう、知ってたよ。
漫画で読んだシーンだったし、
何か微かだけど、ヒロインを探す声が聞こえたから。

だから……。

「すぐに助けが駆けつけるのは知ってました。
　だから、あのコ達を助けたかったんです……。」

ふいに涙が零れる。

一度堰を切ったらもーダメで。後から後から零れてくる。

「フェロー……オマエ……。
　…っ取り敢えず、もう帰ろう。ここは騒がしくなる。」

アレックスがいつものお忍びローブを私に被せ、
私を抱いて風魔法で木々の間を移動する。



貴族の女社会はドロドロしている。

幼年期の茶会なんかでも、他領、特に王都の名家主催パーティなんかでは、
生意気な子を呼び出してお灸を据えたり、
逆に、泣き寝入りするしかない暴言に耐えたりはちょくちょく有ったと聞くし……。
大人は大人で、呼び出し茶会＆吊し上げ茶会に、
庭園の散歩で泥を浴びせるなんてのは序の口、
女の序列の誇示やらなんやらで、さっきみたいな事は日常茶飯事だ。

あのコ達はそんな環境で育ち、何時ものようにお灸を据えようとしただけ。

なのに、相手がヒロインだったせいで攻略対象ズの怒りを買い、家ごと破滅する。

そして、彼女達が"命じられてやった"と言ったせいで、
悪役令嬢ムンストーンサンストーン伯爵令嬢の罪となる。

彼女達が勝手にやったことなのに。

だが、彼女達も悪気が有った訳じゃない……。
名前を勝手に使われる側は迷惑極まりないが。

普通なら、ヒロインみたいな格下相手、
パライヴァの婚約者の名前を出したら追及の手など逃れられるのだ。
そして、そうやってイビるのが、耐えるのが、当然だった。

正直嫌な文化だと思うし、我が領では許さない。

でも、それが当然の場所で揉まれて育って、
ある日突然その根底を覆されるのは、同情してしまうのかもしれない。

だって、それが、それまでのこの国の常識だったのだ。

勿論、その常識の中で、虐めてた相手が急に権力をもって意趣返しで破滅したり、

一家共倒れを恐れて修道院送りになったりした人達は沢山居る。

沢山居るが、

やっぱり、

……目の前で、ヒロインに手を出して破滅するのを、


……静観出来なかった。