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後期!

184: 地味令嬢と羊とダンパとお忍びヤンキー。

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「やぁ、お待たせ。行きましょうか、ご令嬢。」


紺紫の夜会服に身を包んだ茶髪の眼鏡青年がさっとお辞儀して速攻腕を差し出す。

ぇ、早い。

社交辞令は?

今日は素敵な夜ですねーとか言ってから、
美しいとか凛々しいとかドレスが似合ってるとか、容姿を褒めて、

幸せです。とか楽しみです、とか自分の気持ちを伝えるんじゃなかった??

後、令嬢呼びて。

フェリシア嬢って呼ぶのがマナーじゃなかった?
そんな事を考えながら腕に掴まると、
凄く急いだらしくてほんのり汗をおかきになってる。

そっと、クリンナップを掛けてあげて、
すた、すた、と進む。

羊のよーな優しい雰囲気の彼は、私の歩調に合わせてくれるけど、どうやら急ぎたいみたいなので、
颯爽とモデルの様に風を切って歩く。


澄ました顔して、背筋を正して、イッチ、ニィ、イッチ、ニィ!

ホールに向かう同じ様な令嬢令息を後ろから颯爽と追い抜きながら観察する。

どうやら私の地味な装いは、多少は浮く、程度で済みそう。

それにしても、レースゲームとかならキモチイイ位の牛蒡抜きである。

皆そぞろ歩きを楽しみながら、今度何処行こうとか、
髪飾りが似合ってるとか、
どのダンス曲が流れたら嬉しい、とかとか、
会話してるけど、こっちは無言だもん。

あっという間にホールに付く。



「令嬢、飲み物はいかがなさいますか?」

貴方は侍従?

羊青年の過ぎる敬語に戸惑いながら、
ウェイターに差し出された銀のトレイからスパークリングを取る。

口付ける前にホールの端、休憩用のバルコニーがある辺りに連れていかれる。

早い早い。おぶおぶするわ。

「ふぅ、この辺で少し待ってて貰っても?……じゃぁ。」

にこやかに去っていく羊青年。
なんだろー。習った夜会と違いすぎて戸惑う。

ちょっと座ろうと思って壁際の椅子に近寄る。

途端に、すぐ横のバルコニーの、暖簾の様に上から下がった幕がぶわりと翻り、
飛び出てきた腕に、あっという間にバルコニーへと引き摺り込まれた。

結構乱暴な引き摺り方なのに、風魔法で足元も浮かされ、
靴が変に地面を擦る事も、
スパークリングが溢れる事も無かった。

無重力空間の様に、ふわふわと飛び出し掛けてグラスに戻るスパークリングの黄金色の煌めきを、
呆気に取られて見つめている間に、視界がぐるりと変わって、
宵闇へと沈もうとする薄暗い校舎になる。

腹にしっかりと回された逞しい腕、精緻で思い遣り深い風魔法。

ふっ、と止めてた呼吸を短く吐いて、スパークリングをくいっと戴く。

おいしー♪

「やぁ、これはこれは…ムンストーン伯爵令嬢。

 今日は涼しい風があって、夜会日和ですね。
 御一人ですか?

 宜しければ私と少し、お話でも。」

そういって後ろから私を抱き締める彼は、耳の後ろにチュッと音を立ててキスをした。

「アレックス様、そーゆー挨拶の時は手の甲にキスって習いましたよ?」

「ハハッ…カタいこと言うなよ、フェロー。」



色眼鏡を外され、振り返ると、黒尽くめ衣装のアレックスがニマニマしながらこっちを見ていた。

「髪、ほどいたらダメか……?」

「良いですよ?すぐ結べますから。」

「そのドレス、良く似合ってる……。
 クローゼットで見た時はワンピースみたいだったが、
 フェローが着たらそんな立派なドレスになるんだな…
 驚いたよ。」

服が良く見える位、中身が良いと言われてるみたいで、思わず照れて顔を赤くしてしまった。

髪の毛をほどかれ、手櫛で整えられた後、
髪飾りをサイドに差される。

「綺麗だ……。
 何を着ても、着てなくても、フェローは綺麗だが、

 今日は特に綺麗だと感じるな。」

そう言って一房掬った髪にキスをして微笑むアレックスは、

それはもう、イケメンの暴力で。

視界が心臓を潰しにかかってる。

鼻血が出るんじゃないかと思った。

「……アレックス様のが、お綺麗です…よ?」

「ハハハ…なんだそれ。」

変なやつ、と笑ってアレックスが私に口付けする。





ああ、神様。私今、超幸せだーー!!

イケメン過ぎるやろーー!!



心で怒涛の如く叫びながら、

私はアレックスの舌を受け入れ、私も舌を絡ませた。



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