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125: 第二ラウンド

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「いて。」

隙を見て猩々に殻付胡桃を投げた狼令嬢だったが、高さが足りず、丁度前を通り過ぎたリュートの側頭部にすこん!と音を立てて胡桃が的中してしまった。

じろり、と睨まれ、咄嗟に引き攣りながらもバドワイザを指差し口をパクパクさせる。

『アイツアイツ!』


何だかんだで未だ消化不良のリュートには、それだけで充分だった。
一気に怒りが沸騰し、頂点へと達する。

「貴様ぁぁぁぁ!!!」

「ギャァウウウウウ!!僕の奥さんには指一本ーーーー!!!」

飛び掛かる龍に取り敢えず迎え撃つ巨大アナグマ。

あっという間に儀式の広間は混沌の渦と化し、騎士団長が止めても、神官長が止めても、王子が止めても止まらない乱闘騒ぎとなった。

「俺は見たぞ!このイヌ野郎!!本当は俺に向かって投げたろう!!」

「ギャイン!畜生猿野郎が生意気なんだよ!!」

何を勘違いしたのか猩々の側近であるマンドリル獣人が狼令嬢に飛び掛かり、狼令嬢に尻尾を噛まれた狼令息が発奮して応戦する。

「何濡れ衣着せてんだ!このビッチ!!」「ビッチは洗浄だー!」

「パオーーン!冷たいぃぃ!」「待って!兎は泳げなガボガボガボ…!」「イヤニャーー!水イヤニギャーー!」

一方で怒ったアライグマとオコジョの合体氷水魔法が氷水の竜巻となって逃げ惑う狼令嬢を追い掛け、巻き込まれた獣人達が悲鳴をあげる。

「丁度いいわ!決着をつける時よ!イオンウーウァ!!ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく!!でやぁ!」

「望むところよ!マリローズ!!このこのこのこのこのこの!!ハァァ!」

その中央で、マリローズとイオンウーウァは熱き想いと魔力を込めた拳で語り合っていた。

周囲では龍とアナグマの毛と鱗の巨大球と化したラートンとリュートが四方八方にぶつかり合い、時々運の悪い獣人達を轢き潰しながら闘っている。

そのお陰で誰からも邪魔される事なく二人は闘い、マリローズはイオンウーウァに連打からのボディブローを打ち込み、イオンウーウァはマリローズに強烈なスクリューアッパーをお見舞いした。

「くっ!やるじゃない、イオンウーウァ…!でも……」

「…ペッ!……マリローズ、貴方もね…!だけど……」

互いに口の中を切ったのか、軽く唾を吐いて対峙する二人は、最早令嬢ではなく因縁の対決に挑む戦士だった。
握り締めた拳がギリリと軋み、熱い闘志が漲る瞳に、どちらも仄かな友情を灯す。

  「「これで終わりよ!!」」

二人同時に叫んで走りだし、一気に間合いを詰めたイオンウーウァとマリローズは、全力で拳を繰り出した。

今までの色んな想い、怒り、全てを乗せた拳が相手に届く度に、霧散していく。
そうして最後に残ったのは、純粋に相手との闘いを楽しむ、戦闘民族の様な心持ちだけだった。

「このこのこのこのこのこの!!」
「えいえいえいえいえいえい!!」

繰り出される数多の拳。永遠とも思われる短い時間の末、バキッ!という音が響き、こっそり眺めていたキリン獣人は目を見開いた。

「ぐふぅっ!」「ぐはぁっっ!!」

バッチリ決まったクロスカウンターで両者共にダウンしたイオンウーウァとマリローズに、戦火を掻い潜ってキリン獣人が近付き、取り敢えず安全そうな所へと運ぶ。

「イオンウーウァ様、立派な闘いでちた。」「龍の番の人も中々の健闘でちたね。」

先に避難していたアナグマ幼年幼女がそっと健闘を称えつつ扇子で二人に風を送った。
その背後で、まだまだ大乱闘は続いている。

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