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124: 儀式の開始と新たな口火。

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「はぁ……兎に角、あの二人が起きないことには何も出来ぬな……」

溜め息混じりに呟いて王子と神官長を見た騎士団長に、気をきかせたテニーや、オコジョ獣人、他領のアライグマ獣人等が魔法を使う。

「あっ。」

びちゃびちゃビチャバシャ!! 「「フギャーーー!!」」

もくもくと寝込む二人の上に出来るモヤに騎士団長が止める間も無く氷結魔法とアライグマの水魔法が大量の半溶けみぞれになって降り注いだ。

寝ているネコ科に氷水とは、起こすより永眠させる確率の方が高いのではないかと騎士団長は密かに思ったが、幸い、心臓が二人とも若くて逞しかったらしく、寝耳に水どころではない驚きようで七割程獣化していたがバッチリ目を醒まさせる事が出来た。

「「???????」」

訳が判らず目を見開いて震えてる二人を、寸前に飛び退いて巻添えを回避していた侍従達が手早く拭いて身なりを整えつつ、早く儀式をしますよ、と原状を把握させる。

「さ、レオベル様も起きてください。」

その隣で、婚約者にみぞれで冷やしたハンカチで顔を拭かれてレオベルも意識を取り戻し、やっとこさ豊穣祭が執り行われる事になった。

「うう寒い…!叔父上、何だか皆服が乱れてたり、擦り傷なんかを作ってますね。地震でもあったのかな??」

「ふぅむ。判らん。何かあったようだがなぁ…。そもそも、私達も何故倒れたのか……。それにしても服が濡れて気持ち悪い…。」

戸惑ってる内に侍従に儀式を始めるポジションに設置され、王子と神官長はポソポソと囁き合いつつも言われた通りに手順を進める事にした。神前に祈り、決まった手順で手を振り、袖を整え、今の祈りで清められた水が入った盆を捧げ持って、定められた足からしずしずと下がり元の位置につく。

「では、これより、豊穣の儀式を始める!!」

(ふぅ。それにしても服が濡れてて気持ち悪い。全く、なんて豊穣祭だ。前代未聞だ……。)

不快感からいつもより神妙な顔になった神官長の元に、レオベルを筆頭に獣人子女達がやはり神妙な顔つきで近付き、手に持った花や枝を盆の水に浸してから神前に供えて祈りを捧げていく。

その姿はどこか皆厳しい試練を乗り越えた様な緊張感を孕み、そこだけ切り取ればふわふわ幸せいっぱいカップル感全開な例年よりも厳かで真面目に儀式を執り行っているようだった。

実際は皆、今にも暴発しそうな鬱憤やら因縁やらを抱えているだけだったが。

皆、急に騎士団長に諌められ、乱闘を止めたものの闘い足りなかったのだ。
そして、その危うい空気は段々と膨らんでいき、レオベルカップルの後、虎、熊、狼と公爵家が続き、猩々オランウータンが侯爵家筆頭として列に並んだ時にとうとう弾けた。

 コツン…!

猩々オランウータンがすれ違いざま、帰る狼令息の頭にナッツを指で弾き飛ばしたのだ。

サッ!と狼令息が殺気だった面立ちで振り返って猩々令息を睨むが猩々令息は白々しく知らんぷりをする。

「ウウウウウウウ………後で覚えてろよ……!」

低く小さく唸って狼令息捨て台詞を吐き捨てる。
その横で、狼令嬢が静かに翠の瞳を怒りで光らせていた。

こんな時、いつだって事を大きくするのは雌犬ビッチなのである。


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