109 / 128
109: 花見遊山アナグマ達と平和な一時。
しおりを挟む王子と神官長が昏倒する暫く前、神殿前にかなり早く着いたアナグマ御一行様は、衛兵の大型肉食獣人達の嫌がらせにより「少しお待ちを」と言われて脇で待たされたまま放置されていた。
本来ならばバドワイザより後に通されるべき子爵領やら男爵領の馬車が横を通り過ぎる中、延々と脇で待たされて居たのだが、残念な事に、浮かれまくったアナグマ獣人達はキャッキャウフフと話を弾ませ、微塵もその嫌がらせに気付くことはなかった。
「おおー!イオンウーウァ様、これはこれはお似合いで!素晴らしい!」
本来ならば気付いて抗議するべきグーマは今、遠戚の幼い子女が一生懸命作った花冠を付けるイオンウーウァを称賛する事に夢中だった。
「イオンウーウァ様!私の花冠も付けてみて下さい!」
次から次へと、馬車に大量に飾られていた花を使って花冠やら腕輪やらブーケやらが作られていく。
「ちょっと何だか暑くなって来たわね……。」
嫌がらせにカンカン照りの日向に馬車を止めさせられ、温度が上がってくれば、
「俺に任せて♪モカ…♡」
ここぞとばかりにテニーが氷の花を五台の馬車に飾り付ける。
「「きゃぁー!すごーい!冷たい!キラキラしててキレー!」」
「わぁー!バドワイザの皆様、とっても素敵ですー!!」
「おおお!こっちにまでひんやりと!次期当主様と運命の番様の婚約おめでとうございます!!」
「アナグマとイタチ系獣人に栄えあれ!運命の番様との婚約おめでとうございます!!」
幼いアナグマ子女がその冷たさとキラキラに歓声を挙げ、その声に気付いた他領の子女達が祝いの言葉を投げ掛けてくれる。
結局、ちっとも嫌がらせになってない事に歯痒く思いながら衛兵達が通した時には、満を持しての登場に小中型獣人と、大型草食獣人から拍手で迎えられ、やっぱり誰一人嫌がらせに気付かず神殿へと降り立った。
実に平和だった。
バドワイザの子女達は連れ立って神殿が用意した飲み物と菓子や軽食に群がり、他領の子女達と和やかに歓談する。
遠巻きにしていた大型肉食獣人達も、一度くらいは、と挨拶と、ラートンとイオンウーウァに祝いの言葉を述べ、離れていく。
そのまま何事もなく終わるかと思われたが、何処にもトラブルメーカーというのは居るもので。
最初に目を付けられたのは、鬣の無い獅子獣人、レモンド・ダンデリォン公爵令息だった。
彼の一つ上の兄、ダンデリォン公爵家四男も今年婚約し、豊穣祭に参加していたのだ。
「さーて、アイツ一体どんな顔して出席してるんだ??」
アナグマの馬車が到着したと聞いて、半ばウキウキと広間から外を覗いたダンデリォン公爵家四男レオベル・ダンデリォンは、イオンウーウァとラートンの次期当主カップルの次に馬車を降り、恭しくラミテル嬢の手を取った身形の良い獣人を見て、一気に嫉妬やら劣等感やら、様々な悪感情に火をつけた。
彼の記憶の中の弟は、常に見下されて俯き、みすぼらしく、使用人が食事を満足に与えないのかひょろりと細く小さくて、それでいて剣や勉学は中々に優秀という、腹立たしくも何処か溜飲の下がる存在だった。
そんな弟が、アナグマとかいう、今まで獅子獣人のレオベルが気にしたこともない種族に婿入りと聞き、さぞかし情けない顔した弟が見れるのだろうとレオベルは期待していたのだ。
そんな期待を裏切られ、レオベルはギリギリと歯噛みした。
0
お気に入りに追加
418
あなたにおすすめの小説
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
運命の番でも愛されなくて結構です
えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。
ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。
今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。
新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。
と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで…
「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。
最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。
相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。
それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!?
これは犯罪になりませんか!?
心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。
難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる