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109: 花見遊山アナグマ達と平和な一時。

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王子と神官長が昏倒する暫く前、神殿前にかなり早く着いたアナグマ御一行様は、衛兵の大型肉食獣人達の嫌がらせにより「少しお待ちを」と言われて脇で待たされたまま放置されていた。

本来ならばバドワイザより後に通されるべき子爵領やら男爵領の馬車が横を通り過ぎる中、延々と脇で待たされて居たのだが、残念な事に、浮かれまくったアナグマ獣人達はキャッキャウフフと話を弾ませ、微塵もその嫌がらせに気付くことはなかった。

「おおー!イオンウーウァ様、これはこれはお似合いで!素晴らしい!」

本来ならば気付いて抗議するべきグーマは今、遠戚の幼い子女が一生懸命作った花冠を付けるイオンウーウァを称賛する事に夢中だった。

「イオンウーウァ様!私の花冠も付けてみて下さい!」

次から次へと、馬車に大量に飾られていた花を使って花冠やら腕輪やらブーケやらが作られていく。

「ちょっと何だか暑くなって来たわね……。」

嫌がらせにカンカン照りの日向に馬車を止めさせられ、温度が上がってくれば、

「俺に任せて♪モカ…♡」

ここぞとばかりにテニーが氷の花を五台の馬車に飾り付ける。

「「きゃぁー!すごーい!冷たい!キラキラしててキレー!」」

「わぁー!バドワイザの皆様、とっても素敵ですー!!」

「おおお!こっちにまでひんやりと!次期当主様と運命の番様の婚約おめでとうございます!!」

「アナグマとイタチ系獣人に栄えあれ!運命の番様との婚約おめでとうございます!!」

幼いアナグマ子女がその冷たさとキラキラに歓声を挙げ、その声に気付いた他領の子女達が祝いの言葉を投げ掛けてくれる。

結局、ちっとも嫌がらせになってない事に歯痒く思いながら衛兵達が通した時には、満を持しての登場に小中型獣人と、大型草食獣人から拍手で迎えられ、やっぱり誰一人嫌がらせに気付かず神殿へと降り立った。

実に平和だった。

バドワイザの子女達は連れ立って神殿が用意した飲み物と菓子や軽食に群がり、他領の子女達と和やかに歓談する。

遠巻きにしていた大型肉食獣人達も、一度くらいは、と挨拶と、ラートンとイオンウーウァに祝いの言葉を述べ、離れていく。

そのまま何事もなく終わるかと思われたが、何処にもトラブルメーカーというのは居るもので。

最初に目を付けられたのは、鬣の無い獅子獣人、レモンド・ダンデリォン公爵令息だった。

彼の一つ上の兄、ダンデリォン公爵家四男も今年婚約し、豊穣祭に参加していたのだ。

「さーて、アイツ一体どんな顔して出席してるんだ??」

アナグマの馬車が到着したと聞いて、半ばウキウキと広間から外を覗いたダンデリォン公爵家四男レオベル・ダンデリォンは、イオンウーウァとラートンの次期当主カップルの次に馬車を降り、恭しくラミテル嬢の手を取った身形の良い獣人を見て、一気に嫉妬やら劣等感やら、様々な悪感情に火をつけた。

彼の記憶の中の弟は、常に見下されて俯き、みすぼらしく、使用人が食事を満足に与えないのかひょろりと細く小さくて、それでいて剣や勉学は中々に優秀という、腹立たしくも何処か溜飲の下がる存在だった。

そんな弟が、アナグマとかいう、今まで獅子獣人のレオベルが気にしたこともない種族に婿入りと聞き、さぞかし情けない顔した弟が見れるのだろうとレオベルは期待していたのだ。

そんな期待を裏切られ、レオベルはギリギリと歯噛みした。

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