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108: 始まりました、豊穣祭。

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「そういえば、今年の豊穣祭はあの出来損ないが来るんだろう?」

神官服を着せられながら横柄な物言いで壮年の獅子獣人が発した言葉に、レオネット第3王子はピクリと耳を動かした。
図らずも分厚い丸耳に手をはたかれた侍従の一人が、そっと幸運に頬を染める。

「………?」

「あ、レモンド・ダンデリォン公爵家令息の事かと。あの、五男の……。」

パッと言われた人物を思い当たらない王子に、複雑怪奇な飾り紐を整えていた侍従がコソコソと耳打ちする。

「ああ、あの鬣の無い?えっ!?縁談があったのですか??」

そこで漸く従兄弟の一人を思い出した王子は、驚いて神官長である叔父に聞き返した。
王子にとって、レモンドはもうすっかり存在を忘れていた人物だった。

「ふっ、それがな?何でも、バドワイザ伯爵家嫡男と婚約するとか言われてた、同じバドワイザ領の女騎士がいただろう?其奴に見初められたとかで、婿入りするらしい。」

甥っ子が知らないゴシップを届けられると知り、神官長の獅子獣人はウキウキと話し出した。
幾つになっても、甥っ子にキラキラとした瞳で話をねだられるのは楽しいものなのだ。

「へぇ~~!って事はヤツはアナグマと番うのですか??へぇ~!へぇ~~!」

「一体どんな顔して我らの前に現れるのか、楽しみではないか!ハッハッハッ!!」

「ええー!アナグマとかぁ!へぇー!あ、でも、国一番豊かな領だし、中々の玉の輿じゃないですか!やりますねーアイツ!ハハハハ」

愉しそうに嗤う王子と王弟をせっせと飾り付けながら、侍従の若き獅子獣人達は、己に鬣がちゃんと生えて良かったと心から思うのだった。

「さてと、今年は人族の運命の番がセイロンとバドワイザにいるし、鬣の無い獅子はアナグマと番うし、話のタネの宝庫ですね、叔父上!」

「うむ、そうだな。目を皿の様にして、土産話を沢山持ち帰らねばな。さ、行こうか、可愛い我が甥よ。」


いそいそと二人は神殿の広間へと続く回廊を進む。
何やらキャッキャと愉しそうな歓声が聞こえるではないか、と神官長が言い、王子も耳をそばだて、ウキウキ逸る心を抑えて進んだ。

早く見に行きたいが、王族とはいつもゆったり悠然と構えなければならないのだ。

そうして、広間への扉の前で一度身繕いをしてから、獅子獣人二人は満を持して登場したが、噂のレモンドは何処だ、とキョロキョロするよりも早く、飛んできた銀のトレイと銀の水差しが顔面に直撃し、昏倒したのだった。

「キャーーー!早く!こっちに逃げるのよ!」「キャーー!そのテーブル危ない!!」

「いいぞーー!やれやれー!!」「ぶっ飛ばしてやれー!」「何だとテメー!やんのか!?」「はぁー?!やってやんヘブゥ!!」「ざまぁ…フギャッ!!」

「キャー!!」「おい、俺を盾にぐわぁぁっ!」


小動物獣人達が逃げ惑い、時に野次を飛ばし、時に流れ弾に辺り、時に大型獣人を盾にし、大型獣人も小型獣人を避難誘導したり、巻き込まれたり、時に小型獣人を盾にしたり、と、広間はそれはもう、混沌と化していた。

「ヒィィ!!起きて下さい!神官長!王子!起きて!起きてよぉぉぉ!!」

「今起きなきゃダメなんですぅぅ!起きて!起きて起きて起きて起きてぇぇーー!!」

事態を何とかしようと、侍従達は必死に王子と神官長をビンタし続けた。

若干、日頃の恨みを解消しながら……。


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