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94: 何回やってもイタチ共が倒せない

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「はーあ、それにしても、今バドワイザ領にはそんなイタチ共が群がってんのかよ…。てことはさ、飛んでってファイアブレスでもぶちこんでやれば、あのムカつくイタチどもを一掃出来んじゃね??」

ムカつくんだよ、小せぇ癖にいきりやがって、と、バイライトがヘラヘラ笑って言えば、二人の龍人達が失笑する。

「ハハハ、馬鹿なこというなよ、そんなことしたら瞬殺に決まってるだろ?……そうだな、ブレスが街に届く前に、オコジョ達の氷結魔法で凍らされて、それに驚いた時には身体強化したウルヴァリンにぶん投げられたラーテルが体のあちこちにかじりついてて、あっという間に羽を破られて沈められるだろーな。」

「バイライト、ひいじいさんの弟の話、知らないのか?バドワイザの宴見に行って、ちょっと悪戯心起こしてブレス吐いて瀕死になったんだぞ??スカンクとオコジョにやられて、一生嗅覚を失ってブレスも吐けなくなった。しかも向こうは被害ゼロだ。」

バイライトがそうだっけ?と顔をしかめ、フン!と魚に齧り付く。
そんな中、マリローズは静かに龍人達の言葉を聞いていた。

「オコジョの氷結魔法見たことあるか??
あいつら、詠唱しながら瞳孔開ききったアイスブルーに光る目で凝視してくるから気味悪いんだよな……。複数で詠唱する時はなんかハーモニーみたいに声を重ねるしよ…。ちょっと散歩がてらブレス吐いただけなのによ…。」

二人の龍人のうち、少し大柄な方がぶるり、と身震いしながら言う。

「俺はラッコどもの投石を羽に喰らって冷たい海に落ちたよ…。死ぬかと思った……。ほんと、ちょっと道間違えて領海に入っただけでヤツら凄い攻撃してきやがるよな……。」

小柄な方もそっと腕をさすりながら呟いた。

大型龍にとってはちょっとした散歩や悪戯だが、彼らの羽ばたきや闊歩で容易に地は荒れ、地形は代わり、ブレスは山一つ滅ぼしかねない。
だが、弱い獣人達に、それを批判する勇気も力も無く…。

そんな中、小型獣人でありながら唯一龍人やドラゴン達に牙を剥くのがイタチ達だった。
小動物故の数の多さと、持ち前のタフさ、攻撃性で、げっ歯類獣人等の草食獣人達に代わってドラゴンや龍人を追い返していたのだ。

だが、領界侵犯に殺す気で対応されるのは、それなりの理由があるのだと理解できない龍人達にとって、ただイタチ系獣人達は厄介で鬱陶しい存在というだけだった。

龍やドラゴンは傲岸不遜にして、絶対王者として君臨する種族である。その獣人達も然り。

故に、こまこました生き物達の事を考える等、発想すらないのだった。

(龍なのに、イタチにやられるなんて間抜けだわ……。)

そんな三人のやり取りを聞きながら、マリローズはそっと心中で嘆息する。だが、小憎たらしい龍人達が散々な目に遭ったと聞くのは少しだけマリローズの溜飲を下げてくれた。

かくいうマリローズも、実は彼女がイオンウーウァの悪口を言ったせいで物品の単価を上げられ、更にイオンウーウァの婚約式の影響で流通が乱れて物価が上がり、仕事を受けないイタチ系獣人達の代わりに仕事を依頼した鼠獣人の商会には金を持ってトンズラされ、ぼったくられ、大分目減りした予算のせいで食事が質素になったりと、実はイタチ系獣人にそこそこな目に遭わされているのだが……。

質素な食事の方が、生来口にしてきたスモモ村の味に近く、マリローズの郷愁に寄り添ってくれていた。

「俺ら三人で三方から攻めるのはどうだ??」

「バラバラとかそれこそ瞬殺だよ。」

「まぁ、ラーテル数人は道連れに出来るだろうが、な。」

「格好つけた事言うなよ、単にラーテルは命構わず攻撃してくるから数人は一緒に死ぬだろうってだけだろー!スカンクの毒攻撃の巻き添え喰らっても構わず喉裂いて来そうで本当怖い、あいつら!」

三人はまだあれこれとバドワイザ襲撃をシュミレーションしては脳内で返り討ちになっていた。
どんなプランでも返り討ちに遭っている。スカンクの毒ガス魔法に悶絶し、ウルヴァリンに噛み千切られ、ラーテルに食い付かれ、オコジョに凍らされて……と

それは只の妄想話だけれど、小憎らしい彼等が妄想の中で何度もこてんぱんにされるのは、聞いてるマリローズの心を少しだけ楽しくさせた。

(イタチって中々やるのね……。)

なんて考えながら飲むお茶は、そこらに生えてる野草を煎じたような風味のお茶で、マリローズは少しだけスモモ村に帰ったかの様な気分になった。


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