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87: 明日の予定。

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「うふふ…♪私はこの菫のリボンをこうやってこうしようと思うの!」

「あら、素敵ね♪私はこのリボンに金色で刺繍して……。「わぁ、いいじゃない??」

「ね、今度一緒に市に行かない?刺繍糸が足らなくなったのよ~。」


麗らかなティータイム、イオンウーウァは久しぶりに帰ってきたバドワイザ本邸でお茶を飲みながらそわそわと、漏れ聞こえるメイドの会話に耳を澄ませていた。

「市が気になる?」

そんなイオンウーウァを優しく見つめ、向かいに座るラートンが声を掛けた。コトリ、とアールグレイの入ったカップをソーサーに戻す。

「婚約式に向けて仕事を片付けるのに忙しくて、バドワイザでゆっくり遊んだ事が無かったね。明日、僕達も市に行ってみる??」

「市は明日なの?」

ラートンの言葉にイオンウーウァが菫の瞳をキラリと輝かせて聞いた。

「アハハ、バドワイザの領都では毎日市があるけど、今は婚約式に向けて毎日その何倍もの規模で立ってるよ♪」

「へぇ~~!!凄いのねぇ!!」

イオンウーウァにとって、市とは月に一度町で開催され、村人がゴトゴトと荷馬車を押していくものだった。

幼い頃、時々両親に連れていって貰って、確か、飴玉を買って貰った気がする、とイオンウーウァは紅茶の水面を見つめながらそっと思い返した。

白い飴玉に、ピンクや水色の曲線が入った不思議で綺麗な飴玉。

幼心にその美しさに感動し、どうしてもそれが食べてみたいと駄々を捏ねた日。

(確か、パパとママは、もう少し他を見て回ってから買おうって言ったのに、私が動かなかったのよね……。)

これは、テコでも動かない気だぞ♪と在りし日の父の笑う声が聞こえた気がし、そっとイオンウーウァは微笑んだ。

(そういえば、パパの声とラァトの声、少し硬くて良く通る感じが似てる…。)

「……? 僕の可愛い奥さん♡どうかしたかい?」

ふと、父とラートンの声の共通点を思い出し、思わずラートンを見つめて微笑んだイオンウーウァに、ラートンが嬉しそうに笑って訊いた。

「ううん、ラァトの声、好きだなって思っただけ。」

イオンウーウァがそういえば、ラートンの紫紺の瞳がとろりと蕩ける。

「僕も、ウーァの声、大好きだよ♡♡喋る度に綺麗な砂糖菓子や真珠が零れてるのかと思う程、可愛い声♡」

そっと、飲み干したカップをテーブルに置き、ラートンがイオンウーウァの側に歩み寄る。

変化した雰囲気に、イオンウーウァがカップをテーブルに戻そうとすれば、ラートンがカップを取り上げつつ、ゆっくりと覆い被さってくる。

「可愛い唇。可愛い舌……。君の声を甘くしてるのはどっちなんだろう…?確かめてみなくちゃ♡」

低く、甘く、囁かれる言葉にイオンウーウァの耳からゾクリとしたものが走り、心を痺れさせる。

ラートンの厚い唇がゆっくりと重なり、ペロリ、とイオンウーウァの唇を舐める。

イオンウーウァの菫の瞳を覗き込みながら悪戯っぽく細められる紫紺の瞳に、イオンウーウァもそっと微笑んで唇でラートンの唇を撫でた。

カタリ、ラートンが後ろ手で器用にカップをテーブルに置く。

唇が重なり、離れ、重なり、舌がスルリと滑り込んでくる。


(あの綺麗な飴玉…売ってるかしら……)


そんなことを考えて、イオンウーウァはそっと瞳を閉じた。


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