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81: マリローズの王国はもうない。

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軟禁状態で見せる相手も自慢する相手も居ないのにリュートがどんどんプレゼントしてくれるので、服も雑貨もアクセサリーも前ほど欲しくなくなってしまった。

最近、マリローズは全てがスモモ村に居てた頃より色褪せて見えていた。

そんな軟禁状態の中、唯一の楽しみと言っても良いオヤツは、好きなものを用意して貰えるものの、時間指定されてる上にその量は微々たるもので、しかも、我が儘を言ってオヤツを多く食べると夕食の量を減らされるという、とてもストイックなシステムだった。

ジュースが飲める回数と量も定められており、夜は水しか飲めない。


リュートが毎日傍に居てくれたら、マリローズはそれでも幸せだっただろう。

だが、リュートは外出ばかりで殆ど帰って来ない。
やっと帰って来ても、マリローズの話は聞いてくれるが、幾らマリローズが対応の酷さを訴えても、使用人は皆マリローズの為を思ってしてくれているから、と逆にマリローズを宥めるだけだった。

そして、それ見たことか、とリュートが又出掛けた後にネチネチグチグチ言われるのである。

はぁ、と溜め息をつけば、コンコンとノックの後、「番様、そろそろお眠り下さい。」と固く冷たい侍女の声がする。

その口煩さにマリローズはガシガシと自分の髪の毛を掴んで引っ張った。

金の長い髪が数本指に絡むが、痛みに少しだけ気分がスッキリとする。

寝心地が良いのか悪いのか判らない、豪奢な刺繍が施された布団とシーツの間に潜り込み、無理やり目を閉じるも中々寝付けない。

眠れない時は寝るまでお喋りに付き合ってくれたパパ。
眠そうに目を擦りながらもミルクを暖めたり、ちょっとクッキーをくれたりして、「早く寝なさい♪」と優しく頭を撫でてくれたママ……。

スモモ村ではいつだって皆マリローズに優しかったのに。

そう思うと哀しくなったが、優しい両親との眠れない夜の一時を思い出したからか、程無くマリローズは眠りについた。

スモモ村を思い出して眠りについたせいか、マリローズが久々に見る夢は甘く美しいスモモ村の生活だった。

素朴な木の器だが、ゴーヨクが手彫りし、家族の名前とその時々で頼んだ様々な模様が刻まれたお気に入りの器。
ジュースが飲みたいと言えば直ぐに庭や倉から果物を取ってきて搾って貰え、望めば好きなだけパンケーキやクッキーにチーズやクリーム、ジャムを乗せて食べれた。

田舎道と畑と森と川と草原しか無かったが、好きに外に出て、何も気にせず駆け回った。
出会う人は皆マリローズ達に頭を垂れ、ニコニコ笑って誉め言葉しか言わない。

小さな小さな狭い王国。

マリローズがお姫様として君臨していた長閑な王国。


今はもう、何処にもない。潰えた王国。



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