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69: 世界で一番美しい。

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「……ん?…!…ぷへっ」

ヒラヒラと、ラートンの鼻に羽がペシンペシン当たる位近くを飛んだ虹色の蝶がイオンウーウァの瞼に止まり、くるりと巻いた口吻を伸ばしてそっと瞼を吸う。

ピクリ、とイオンウーウァの瞼が震えた。

「…………ぅゎ!」

そのまま数秒。
その様子を不思議そうに見ていたラートンの顔面を、飛び立ちざまにペシペシン!と叩いて虹色の蝶は何処かへと飛んでいってしまった。
虹色の蝶も妖精と同じく妖精の森の住人。何をするにしても、イタズラもしないと気が済まないタチだったのだ。



「……ぅ……うぅん…………ん??ここは?らぁと??」

蝶が起こしたらしきイオンウーウァがラートンの腕の中で目覚め、ラートンの尻尾が喜びの余りブンブン風を起こし、驚いた精霊が幾つかくるくると飛んでいった。

「良かった!目が覚めたんだね?!!」

嬉しさ全開の笑顔で言うラートンに、イオンウーウァはハッ!とした顔で言った。

「あ!ラァト!探してたのよ!良かったァ!」

キラキラした満面の笑みで言うが、探してたのはラートンの方である。

だが、ラートンはそんな事をおくびにも出さずに嬉しそうに尻尾で旋風を作った。

「え?本当??ウーァが探してくれてたなんて、光栄だなぁ♡嬉しいなぁ♡……ごめんね、はぐれちゃって。」

「ううん、良いの♪とっても綺麗な蝶々に綺麗な場所だったから、ラァトと一緒に見られて嬉しいな、って思ったら肝心のラァトが居なくてビックリしただけだから…。」

ラートンに降ろして貰いながらイオンウーウァが言えば、ラートンは蕩けた顔を更に蕩けさせた。

「そうだったんだ!丁度僕も一緒に見たいって思ってたんだ…♡嬉しいなぁ♡♡」

さく、さく、とイオンウーウァが苔を踏みしめて泉を見渡す。

「本当に綺麗で不思議な景色……。確か、幻想的…って、言うのよね?」

「……僕の可愛くて美しくて素敵な番さんは、物知りだよね♪…後は、神秘的、とか、絵画から抜け出してきた様な……とかかな?」

溜め息を吐きながらうっとり言うイオンウーウァに、ラートンが優しく肩を抱きながら言葉を繋ぐ。

優雅に飛び交う虹色の蝶と精霊の光の粒。
ランタンの灯りは茜色や菫色、時に暖かな金色に輝き、泉の水面を染める。

とろりとしたオレンジピンク色の空気の中、其処此処で小さな虹が架かる情景にイオンウーウァは1つずつ指差してラートンと一緒に眺めていることを喜んだ。

「本当に、絵画から抜け出してきたみたいだよ……。」

花が咲き乱れるドレスに朝露と蜘蛛の巣の神秘的なベール。
髪は蔓と房になって咲き垂れる花々が編み込まれたハーフアップで…。

幻想的な情景に、ラートンだけに追加された美しい妖精の姫君。

「本当に綺麗だね……。世界で一番美しいよ………。」

「ええ、本当に…。」

本来なら胸を打つ幻想的で美しい光景も、今のイオンウーウァを引き立たせる背景でしかない。
今、ラートンの目に映っているイオンウーウァは世界中の何より美しく素晴らしい。

(あぁ、このままずっと眺めていれたら…)

そう思って口にしたラートンの賛美を、てっきり二人で眺めている景色の事だと思ってイオンウーウァはニッコリ微笑んだ。

その笑顔にラートンが眩しそうに笑う。

それが何だか嬉しくて、愛しくて、イオンウーウァはそっとラートンの腕に掴まって背伸びした。
応えるようにラートンの顔が近づいてくる。



(ヒューヒュー♪おアツーい♪)(キャー!キスしたわ!キスしたわ!!)(コイツら早く帰れよなー!)(まぁまぁ良いじゃない♪)


あちこちの宿りランタンの花の中から盛大に野次が飛んでいたのだが、妖精達の声が聞こえない二人には、唯唯幻想的な光の煌めきにしか見えなかった。

その後暫く眺めた後、帰ろうとした二人は、行きのラートンの苦難からは信じられない程すんなりと遊歩道に戻り、妖精の森を後にした。





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