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51: 妄想朦朧モカと遠くの塩焼き

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「ハイハイ、シンシューポリス名物鮎の塩焼きィ~~!
今食べないと売り切れちまうよー!そこの見てるだけの旦那方!早く買わねぇと本当に無くなっちまぅ!ハイハイ、寄ってらっしゃい♪食いにらっしゃい♪」


雑踏の向こうから聞こえてくる威勢の良い掛け声に、モカはキュッ!と下唇を噛み締めた。

「よし、じゃぁ、次はこれを荷馬車に積んでいくぞ!」「ハイ」

アンズがガタガタと台車を転がしてきて、梱包された小さな包みが山のように入ったコンテナを一つ手に取って言えば、シフォンが真剣な眼差しで返事をする。

そうやって荷物の積み降ろしを手伝わされたかと思えば、今度はこっちだ!とグーマに呼ばれる。

「ハイ!すぐにいきます!」「アンズさん、積み終わりました!」

それにいちいち元気良く返事をして、中古の使用人服でセカセカ動き回る姉のシフォンも、従兄弟や兄、叔父をアンズさん、バジルさん、グーマ様と呼ばなければならないこともモカは気に入らなかった。

「シフォン、この草案を清書して、こっちのメモを時系列に直して綴じておいてくれ。」「ハイ!すぐに!」

「モカはこっちで商会の荷降ろししたモノのナンバリングを手伝ってくれ。」

「~~ッッ!今行きますぅ~!」

(ぐぎぃぃ!なんでこんなこと!でも、ラートン様が見て、働かされてる私の可哀想さに「何してるんだ!」って皆に怒って、それから、私が「いいえ、私にはこれ位しか出来ることがないので…いいんです!」って言って…そしたらラートン様が、「なんて健気なんだ!ずっと近くに居てたのに、こんな可愛い、健気な君に俺は今まで気付かなかったなんて…♡」ってなって、それで!二人は!!キャーー♡♡♡なーんちゃってなーんちゃって!!)

皆が忙しく働く中、モカは慣れない労働に朦朧としかけた脳味噌で酷い妄想を繰り広げた。

そもそもラートンの一人称は僕であるが、それすらも気付かないモカの妄想の中で、現実よりスリムで毛の深くないラートンとキラキラしたモカが目眩く愛の逃避行に繰り出し、モカはヘラヘラと笑いながら目の前の仕分け作業に精を出した。

((何だか気持ち悪いが、初めて働くらしいし、きっと疲れてきてるんだろう……。))

商会の職員達はちょっとモカのヘラヘラ笑いにドン引いたが、一応遅いながらも仕事はしているし、そっとしておく事にした。

「おや、見て!若様と番様があそこで鮎を食べてらっしゃるよ!」

職員の一人が、昼飯時になり観光客が居なくなった広場の向こうに見える二人を指差し、楽しそうに言う。
職員達が一斉にどれどれと振り向き、モカも妄想の世界から我に返って指差された先を見た。

そこには、楽しそうに魚を頭からムシャムシャと食べる仲睦まじい二人がいた。




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