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36: 名前を呼んで、キスをして。

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「ねぇ、ラー様…。私、イオンウーウァ・フォレストって言うの。」

「!」

突然のイオンウーウァの自己紹介にラートンの手綱を持つ手がピクリと反応する。

彼女の名前は出会った日に調べあげられていたし、なんならその後の報告書でイオンウーウァの両親祖父母叔父叔母の名前までラートンは調べて暗記していたので、物凄く今更な感じはあったが、黙って頷いた。

「可愛い、僕の運命の番のイオンウーウァ・フォレストさん♡僕はラートン・バドワイザって言うよ♡」

優しくラートンが調子を合わせれば、イオンウーウァが嬉しそうに頷く。

「これからも宜しくね、ラー様。……あのね、私も名前で呼んで貰いたくなったの。」

「わぁ、嬉しいな♪僕の可愛いイオンウーウァ♡……凄いな、舌の上で転がって、お砂糖みたいに甘く感じる名前だね♡♡」

言葉に糖分は無い。

だが、喜びの余りふさふさ尻尾をブンブン振ってイオンウーウァの頭頂部に鼻面を突っ込んだラートンが、嬉しそうに蕩けた声で言えば、まるで本当に砂糖の様に甘い気がして、イオンウーウァまで砂糖に浸けられた気分になった。

ケココココココ……!(ウワァ、ナンダ、クスグッタイゾー!)

空気の読める韋駄天丸は、ラートンの尻尾に腰を擽られ驚きつつも、揺らして二人の気分を妨げないようにと只管耐えたのだった。

「ねぇ、可愛い僕のイオンウーウァさん……♡少し、大人のキスをしても?」

きゅいっ?!ケココ…。(ナヌッ!?ユラサナイヨーニシナキャナ……。)

韋駄天丸は凄く空気の読める牽獣だった。


「大人のキス…?」

「そう、少しだけね…いつもより……。」

ラートンが片手で纏めて手綱を握り、そっとイオンウーウァの顎に手を添える。

流れに身を任せてイオンウーウァが後方を向けば、ラートンがその唇にそっと口付けし、何度か唇で啄んでから、彼女の森に実る苺の様な艶やかに色づいた唇をペロリと舐める。
そして、その先に潜んでいる柔らかな舌もペロリと舐めた。

「…?!」

驚いたイオンウーウァが菫の瞳を見開いてラートンを見詰めれば、ラートンの紫紺の瞳が悪戯っぽく見返す。

ここここ…!(ウー!ユレル、ゴメン!)
すざざざさざ……!!

韋駄天丸がくぐもった警告音でラートンに注意を促し、ラートンはすぐにイオンウーウァから唇を離して確りと韋駄天丸に掴まった。
ギュッとラートンの逞しい筋肉の檻に優しく閉じ籠られ、イオンウーウァはドキドキする胸を押さえて韋駄天丸の背中のヒョウ柄を眺めた。

ちろり、ちろりと舌先で舌先を擽るようなキスは、足場の悪い峠の下り坂のせいですぐに終わってしまったけれど、その初めての感覚は、充分過ぎる程刺激的で、その後バドワイザの邸に着くまでイオンウーウァは赤い顔をしたままだった。


こうして、韋駄天丸は動く初ディープキスプレイスとなったのだった。


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