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32: 羽毛の海で湧いた確信と名前の謎。
しおりを挟むもう少しイオンウーウァが大きくなったら、ポニーを買ってあげるわね♪と唄うように朗らかな声で言った母親を思い出し、ふっ、とイオンウーウァは笑みを零した。
父母はその後少しして亡くなってしまったけど、生きていれば、目の前の親子の様に色々な所に連れて行ってくれたという確信が、不意に湧いてきたのだ。
そんな事を思い出すのも、そんな確信を抱くのも、ひとえにラートンやバドワイザ家の面々にたっぷりと愛情を注がれたからだろう。
それはとても些細な事だったけれど、まるでパズルの最後の一片のようにカチリと心の隙間に嵌まり、幼い頃の幸せな記憶を封じて只管一人で生き延びてきたイオンウーウァの心を溶かし、人に愛されてきたという自信を取り戻させた。
「ふふ、ふふふふふ……あはははははっダメよ…!擽ったいから~
!」
けけこここ…♪…ギョルギョルぐるるるるん♡
そんなイオンウーウァを知ってか知らずか、明けの明星丸と韋駄天丸がイオンウーウァの脇に鼻面を差し込んで擽り笑わせる。
ぎょるっ!ギョルギョルギョル…キョキョキョキョキョ!((ウィース!チョリーース!!))
更には、荷卸しの終わった他のグリフィン、宵の明星丸と月光春麗丸と陽光秋凛丸と日輪炎天丸に月輪涼風丸、スイートマカロンとエルダーフラワーまでやってきて、あっという間にイオンウーウァとついでにテリーくんを羽と毛の海で溺れさせたのだった。
「うちのグリフィンがすまないね、大丈夫かい?」
「はぁ~♡とっても幸せだった♡♡」
うっかりグリフィンの海に巻き込まれて溺れたテリーくんが、ウットリしながらラートンに助け出される。
そんなテリーくんを胸に抱いて、ラートンはイオンウーウァがもみくちゃにされながらもグリフィン達や韋駄天丸を撫でるのを眺めた。
(子供かぁ……。僕の奥さんは子供いっぱい♡産んでわちゃわちゃと囲まれるのが似合いそうだな♪奥さん似と僕似がコロコロと……♡♡)
ラートンはかなり気が早かった。
「あ!若様!すみません!コラァ!明星ズ!!月光!陽光!日輪に月輪!マカロン!エルダァ!番様が困ってらっしゃるだろ!ハウスハウスハウスー!!」
ぢょぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅ…!!(チェー!)(ウッザウッザ!)(ナマエリャクスナーー!)
「はーい、オヤツが欲しかったら素直に繋留草場に行こうねー。」
ぢょぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅ…!!((え"ーーー!))
そんなラートンの妄想とイオンウーウァの羽&毛もみくちゃタイムに終止符を打ったのは、バドワイザ商会の使用人二人だった。
ぎょるるるる……((オマエタチ、ホドホドニシナイトニンゲンガスネルゾ…。))
ラートン程では無いがアナグマ獣人にしては屈強な体を持つ二人は、穏やかに唸る年嵩のグリフィン、明けの明星丸と宵の明星丸と月光春麗丸と陽光秋凛丸の父である煌星スピカ丸とスイートマカロンとエルダーフラワーの父であるシャイニングロリポップに乗り、不満たらたらのグリフィン達を休憩場所である草場へと追い立てて行く。
そんな中、しれっとラートンに手綱を握られてる振りして居残った明けの明星丸に韋駄天丸が怒りの噛みつき攻撃を食らわす。
けここ!(オマエモイケヨ!)きょるるるん?(ナンノコトカナ…)
「あああ、煌星スピカ丸とシャイニングロリポップまでこんな近くで見れたし、韋駄天丸の鱗が僕の足に触れたよ……!おかぁさん!」
「……そう言えばラー様、皆変わった名前だけど誰がお名前を付けてるの??」
感激するテリーくんの言葉に、ふとイオンウーウァが疑問を口にする。
イオンウーウァの知る動物達の名前は、ポチ、タマ、ミケ、シロ、ボー、などで、唯一長い名前が行商人の一人が相棒にしていた騾馬のミケランジェロだった。
最近、明けの明星丸と韋駄天丸に良く乗せて貰うせいで大分口が呼び慣れてきたが、何だか独特の名前で、てっきり、特別な二頭だからこんな名前なのだとイオンウーウァは思っていた。
だが今、荷卸しに集められた沢山のグリフィン達の名前を聞き、皆こんな名前だったのかとイオンウーウァは少し驚いたのだ。
そんなイオンウーウァをラートンとテリーくんがにこりと笑って見詰める。
「僕の可愛い奥さん♡それは「グリフィンや豹紋リザードランナー達の名前は、それぞれ愛情込めて育てたブリーダーさん達の想いの結晶なんだ!名付け方としては、その子の両親の名前に因んだ名前にするんだよ!そうしたら血脈が判るからね!後、名前の雰囲気でどこのブリーダーさんの育てた子か判るようにもしてるよ!!王侯貴族様なんかは迎えたグリフィンやリザードランナーや馬に新たに名前を付け直したりするんだけど、バドワイザ商会並びにバドワイザ一族は、家門にブリーダー職が沢山いるせいか、名付けられた名前を変えたりしないから、皆最初に付けられた名前のままなんだ!因みに、韋駄天丸のブリーダーさんと明けの明星丸のブリーダーさんはお祖父さんが兄弟で、その又ひいひいお祖父さんがリザードランナーのブリーダーを始めた時に生まれた子達に~~丸って名前を付けるようになって以来、伝統的に~~丸って名前を付けてる名門ブリーダー一族なんだよ!そんでもって僕のおとぉさんはそのお二人の牧場に干し草と芋虫と果物を卸してる農園をしててね!今日はグリフィンがチーズ出荷するのに沢山来るって聞いてボクおかぁさんに連れて来て貰ったんだー!!(超早口)」
イオンウーウァは取り敢えず、テリーくんがグリフィンを見に今日此処に来たという事を理解した。
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