上 下
26 / 128

26: アナグマ獣人とは何足るか

しおりを挟む


「そうだった、ラートンは判っててもお嫁さんは判らないよね。ごめんごめん。あのね、私達バドワイザ家はね、イタチ系獣人達の王様みたいなお家でね。
ラーテルやクズリ、アライグマ、ラッコ、スカンク、フェレットみたいな種族からオコジョやテン、小さなカワウソにミンクまで、色んなイタチ系獣人達の大事な巣穴の役割を担ってるんだ。」

グズーリヤが言葉を切って、いいかな?とイオンウーウァを見詰めるので、イオンウーウァはコクリと頷いた。
獣人達の容姿などが良く判らなかったので森で見た動物達を思い浮かべたイオンウーウァの頭の中が、ちょっと胴の長い系アニマルで埋め尽くされていく。

「我々アナグマは巣穴をいつでも快適にし、時に外敵から巣穴を守って戦い、時に兎や狸や野ネズミ、コヨーテ達をも巣穴に受け入れてやる。
そうやって我々が巣穴を維持するからこそ、ラーテルやクズリ等の荒くれ達は安心して世界に飛び出し、巣穴を顧みずに思う存分冒険して、戦って、世界を股にかけれるんだ。
そうして、世界のあちこちで弱ったり、老いたり、恋をしたりして、巣穴に還ってきた奴等を我々アナグマはいつでも歓迎する。
我々アナグマの巣穴は、世界中のイタチ系獣人の揺り篭であり、休憩場所であり、墓場なんだ……。」

グズーリヤの言葉に、ラスカリーやラートン、バジャー、アナ、グーマやメイド達、使用人達。部屋にいた全てのアナグマ獣人達がほんの少し胸を張って誇らしげに頷く。

その様子に、イオンウーウァはアナグマ獣人とはなん足るかを少しだけ理解できた気がした。

「……とまぁ、そんな訳でね…。
兎に角、バドワイザ家次期当主に繁栄と幸運の象徴である運命の番が出来たと聞いたらお祝いに駆け付けたい人達が凄く凄ーーく沢山いて、しかも、世界中に散らばってるんだよ。
だもんで、彼等にお知らせするのにも時間が懸かるし、更に彼等がバドワイザ領に来るのにも時間が懸かるからね……。なんせ、龍人みたいな翼とか無いし……。
本来なら運命の番とは直ぐに婚礼しちゃったりするんだけど、うちでそれすると末代まで無念がられかねないからね……。
ぁぁあほら、でもさ、ラートン!何かほら!君達時間をかけた方が良さそうな感じじゃないか!ね??一応ほら!婚約式終わったら番っても目をつぶるからさ!ね!ゆっくりイチャイチャしなよ!ね??ね??」

「そうそう、番ちゃんとのデートを楽しんでれば、すーぐ結婚式よ、きっと。」

判りやすくイオンウーウァに説明しつつ、いつの間にかラートンへの言い訳と慰めになったグズーリヤの言葉の後をラスカリーが楽観的に継いだ。

「はぁぁ……。まぁ、一年半後という事ですね…?ううう~~…僕の可愛い番さん♡傷心の僕を慰めておくれ……♡♡」

ヨヨヨ…とワザとらしくしなだれかかるラートンの頭をイオンウーウァがヨシヨシと撫でれば、途端にラートンが蜂蜜でもイッキ飲みしたかの様なデレデレ顔になる。

「まぁ、良く考えたら、超超超豪華な結婚式にしようと思ったら、準備にそのくらいかかるよね♡よし決めた!スッゴク豪華で素敵な結婚式にしようね♪♪ね、可愛い僕の奥さん♡」

「マカロンとか、お菓子いっぱいあるのが良いな…♪」

「ヨシキタ!任せて~!お菓子のドレスでも家でもチャペルでも、なんならお城でも作っちゃうよ♡♡」

豪華な式にしようと決意を新たにするラートンに、イオンウーウァが希望を伝え、ラートンは何だか絵本の魔女か色んなモノでドレスを作る歌姫の様な事を口走る。

何だかんだラートンの愛情ばかり目立つがイオンウーウァも結婚を楽しみにしているのだ。

「……取り敢えず砂糖貿易に手を出しておいた方が良さそうですな……。」

そんな二人のやり取りに胸焼けを覚えつつ、グーマはそっとTo doリストを追加したのだった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「おまえを愛している」と言い続けていたはずの夫を略奪された途端、バツイチ子持ちの新国王から「とりあえず結婚しようか?」と結婚請求された件

ぽんた
恋愛
「わからないかしら? フィリップは、もうわたしのもの。わたしが彼の妻になるの。つまり、あなたから彼をいただいたわけ。だから、あなたはもう必要なくなったの。王子妃でなくなったということよ」  その日、「おまえを愛している」と言い続けていた夫を略奪した略奪レディからそう宣言された。  そして、わたしは負け犬となったはずだった。  しかし、「とりあえず、おれと結婚しないか?」とバツイチの新国王にプロポーズされてしまった。 夫を略奪され、負け犬認定されて王宮から追い出されたたった数日の後に。 ああ、浮気者のクズな夫からやっと解放され、自由気ままな生活を送るつもりだったのに……。 今度は王妃に?  有能な夫だけでなく、尊い息子までついてきた。 ※ハッピーエンド。微ざまぁあり。タイトルそのままです。ゆるゆる設定はご容赦願います。

【完結】それではご機嫌よう、さようなら♪

山葵
恋愛
「最後まで可愛げの無い女だ。さっさと荷物を纏めて出ていけ!」 夫であったマウイに離縁を言い渡され、有無を言わさず離婚届にサインをさせられた。 屋敷の使用人達は絶句し、動けないでいる。 「おいビルダ!何を呆けているのだ。この届けを直ぐに役所に届けろ」 「旦那様、本当に宜しいのですか?」 「宜しいに決まっているだろう?ああそうだ。離婚届を出した序でに婚姻届を貰ってきてくれ。ライナが妊娠したから早急に籍を入れる予定だ。国王陛下に許可をしてくれる様に手紙も頼む」 私はビルダと共に部屋を出る。 その顔はきっと喜びで微笑んでいただろう。

【完結】目覚めたら、疎まれ第三夫人として初夜を拒否されていました

ユユ
恋愛
気が付いたら 大富豪の第三夫人になっていました。 通り魔に刺されたはずの私は お貴族様の世界へ飛ばされていました。 しかも初夜!? “お前のようなアバズレが シュヴァルに嫁げたことに感謝しろよ! カレン・ベネット!” どうやらアバズレカレンの体に入ったらしい。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

不妊を理由に離縁されて、うっかり妊娠して幸せになる話

七辻ゆゆ
恋愛
「妊娠できない」ではなく「妊娠しづらい」と診断されたのですが、王太子である夫にとってその違いは意味がなかったようです。 離縁されてのんびりしたり、お菓子づくりに協力したりしていたのですが、年下の彼とどうしてこんなことに!?

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

処理中です...