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25: バドワイザの立場
しおりを挟む「二人の婚約式を兼ねた御披露目は、半年後にする事にしたよ。そこから一年後に結婚式だ。」
カラン…!
王都爆買いデートから帰ってきたラートンとイオンウーウァを軽食に誘ったグズーリヤ伯爵が、妻のラスカリーの為にブルスケッタを皿に盛りながら伝えれば、ラートンは驚愕にスプーンを持つ手を滑らせた。
その真っ青になった顔を見て、ラスカリーは前から疑問だった事を訊くことにした。
「ねぇ、ラートン。貴方達はもう番ったの??」
沈黙の中、やけに大きく響いたラスカリーの問い掛けに、ラートンと使用人一同は静かに首を振り、
イオンウーウァだけがコクリと頷いた。
「っっ~~!……可愛いっっ♡♡♡そーだね!僕の可愛い番さん♡君と僕は番だもんね♡僕たちは運命の番だもんね♡♡」
番ったとは、要は性交の隠語なのだが、常々自分はラートンの運命の番だと周囲から聞かされていたイオンウーウァは、てっきり"番なのか"と訊かれたと思い、頷いたのだった。
その一片の曇りもないピュアピュアな菫色の瞳に、ラスカリーは全てを察し、可愛い可愛いと筋肉を捩って悶えるラートンの影でグズーリヤと使用人一同もちょっとだけキュン♡としてしまい、密かに悶えた。
(ああ、ラートンの可愛い番ちゃんはマダ、寝ようと言われたらニッコリ笑顔で一緒のお布団にくるまってスヤスヤしちゃう段階なのね……。)
(なんてお可愛らしい…!このアナ、若様が相思相愛で、しかもお相手がピュアピュアで、何だか胸がキュン♡キュン♡だわ!!)
(いけない、ピュアなラートンのお嫁さんにちょっとキュン♡としてしまった。隠さないとまたラートンに噛まれてしまう。)
等と各人が考えている中、ラートンはイオンウーウァを一頻り抱き締めて頬擦りして軽くキスの嵐を降らせてから、どんよりとした顔でグズーリヤを睨んだ。
「うわ、ラートンよ。そんな腐った沼鯰の死骸みたいな濁った目で睨まないでよ……。君も我々の立場は判るだろ?」
グズーリヤ伯爵の言葉に、ラートンがぶっすり不貞腐れ、イオンウーウァが小首を傾げて伯爵を見た。
「……立場…?」
イオンウーウァは最近、ラートンの行動や使用人の数、態度等から、バドワイザ家がスモモ村の村長等とは格が違う、とってもお金持ちで、何だか本で読んだ王様の様に偉い人達だという事を感じていた。
そして、運命の番である自分は、その一員になるだろうから、覚えなくちゃいけないことも沢山ありそうだとも………。
そんな直向きな決意が滲む菫の瞳で"教えてください"とばかりに見詰められ、グズーリヤは顔の筋肉を総動員して穏やかな笑みを作った。
幼子の様な可愛らしさに、うっかり目尻でも下げようもんならラートンのはち切れんばかりの筋肉が、今度こそ自分の息の根を止めかねないと思ったからだ。
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