21 / 128
21: ルイーザは見た!(モブ回)
しおりを挟む「ほら、私ってば婚約者が騎士団にいるでしょう??」
ルイーザが赤縦ロールを再び後ろに払って得意気に言う。
彼女の婚約者は伯爵家の三男で騎士爵を賜って独立した、かなり赤みの強いオレンジの毛並みを持つ狐獣人だった。
単に、個性的過ぎるルイーザへの求婚がその烈火の様な赤毛と性格に一目惚れした彼だけだったのに対し、引く手数多なテレサの婚約は父母によって慎重に吟味されているだけなのだが、そんなことは露も知らないテレサはそっと俯いた。
「いいなぁ……私もイイヒトが欲しい…。運命の番が欲しい……。」
そのいじらしい姿に周囲がほっこりするが、お構い無しにルイーザは語りだした。
「ほら、私の婚約者のテレンス様はこないだまで遠征してたでしょ??それで、こないだ帰ってきて初めての模擬試合だったのね。で、応援に顔を出したんだけど、その帰りにね、ラミテル・バドゲル伯爵令嬢をお見かけしたのよ!女騎士の!!
彼女、バドワイザ小伯爵様と再従姉妹で家柄も釣り合ってるし、血も近すぎないし、仲も良好だし、何度か夜会にパートナーとして二人は参加してたし、きっと婚約するだろうって言われてたでしょ??
それに、彼女も満更じゃなさそうだったじゃない??」
「そうだった……確かに、小伯爵様は婚約者はおられなかったけど、ラミテル様とゆくゆくは……って皆思ってたわよね……。」
ルイーザが言葉を切り、テレサに注いで貰った紅茶をゴクゴク飲む間にマリーが確かに、と呟いた。
皆それぞれ、夜会やガーデンパーティー等で見た、温厚そうな笑みを浮かべたラートンと、その横でキリリと凛々しい顔でシンプルなドレスを着こなす美しい女騎士を思い出す。
そうだ、彼女は一体どうなったのだろう……、と。
子狐令嬢達が揃って頷き合い、続きを期待してゴクリと唾を飲み込んだ。
今や、カフェ中の獣人が耳をそばだてていた。
「あら、ラミテル様だわーって私が挨拶しようとしたら、後ろから凄い勢いで走ってきたイタチ系獣人が、びゅん!って私を抜かしてラミテル様に走り寄ったの!
お嬢様!ラートン様が運命の番と出逢われたそうです!!ハァハァ…竜人の番が出た、人族の…同じ村でッ……!!
急いで来たらしくて酸欠で喘ぎながら言うその獣人に、ラミテル様はそれを聞いた途端、目をカッ!!と見開いて!」
バン!と語りに熱が入ったルイーザがテーブルを叩き、ガチャン!ティーセットが弾む。
「ガバッ!とそのイタチ系獣人の両肩を掴んだラミテル様!
なぁにぃ!!?そ、それは本当なのか?!!
ハイ!セイロン家嫡男から番に贈る貢ぎ物行脚の商人達の護衛で、サピエン国モ領スモモ村という所に行くとは聞いていたんですが、その同じ村に、ラートン様の運命の番も住んでらしたそうです。……グーマ様の目から見ても、運命の番としか思えない様な反応だったそうで…、その、お二人の婚姻は確実だそうです……。
説明しながらも!段々声が頼りなく、小さくなっていくイタチ系獣人。肩を掴むラミテル様の手がブルブル震えていて…。チラッとイタチ系獣人がラミテル様の様子を伺った瞬間!
ツ、ツガイィィィィィーーー!!
般若みたいな顔で、そんな声出るのかって位、普段のハスキーボイスとはかけ離れた金切声で叫んだと思ったら、いきなりこっちに爆走してきたラミテル様!!
その目は血走ってて、え、これ、轢かれる!!と思った私はビターーン!と回廊の壁に張り付いて回避!
お嬢様!?どちらへ!??と焦って追い掛けながら叫ぶイタチ系獣人!
スモモ村ァァ!!私もツガイィィィィィ!!と叫ぶラミテル様!!と、
ドーーン!!
回廊を走り抜けようとしたラミテル様に、通路の一つから出てきた人が思いっきり衝突!!散らばる紙束!駆け寄るイタチ系獣人と私!!
なんと!思いっきり跳ね飛ばされて目を回してたのは、模擬試合に辺境伯騎士団から選抜されて来てた、ダンデリォン公爵家の五男、レモンド様だったの!!
イタタタタ……申し訳無い…。そういって起き上がったラミテル様が、レモンド様に手を貸そうとして、ハッ…!とした顔してレモンド様を見つめたと思ったら、
君、名前は?独身かな?婚約者は既に居るのかな??
キリリとした顔で矢継ぎ早に質問するラミテル様!
……そんな…僕に婚約者なんか……。
俯きながらそう応えるレモンド様に手を貸しながら、
や、すまない。名乗りもせずにいきなり無礼な質問ばかり…。取り敢えずお互い医務室に行こうか、頭を打ってるかもしれないからな…。
なんて言って二人で歩いて行ったのだけど、今日、テレンス様にさっきお会いして聞いたら、あのお二人婚約したんですって!!」
ジャジャーーン!と口で言ってデラックスな樽ボディを嬉しそうに揺らすルイーザに、聴衆はポカンとした顔を返した。
「ダンデリォン公爵家のレモンド様ってどんなお方だったかしら……?」
テレサの疑問に、皆がうんうんと頷く。
1
お気に入りに追加
415
あなたにおすすめの小説
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
気づいたら異世界で、第二の人生始まりそうです
おいも
恋愛
私、橋本凛花は、昼は大学生。夜はキャバ嬢をし、母親の借金の返済をすべく、仕事一筋、恋愛もしないで、一生懸命働いていた。
帰り道、事故に遭い、目を覚ますと、まるで中世の屋敷のような場所にいて、漫画で見たような異世界へと飛ばされてしまったようだ。
加えて、突然現れた見知らぬイケメンは私の父親だという。
父親はある有名な公爵貴族であり、私はずっと前にいなくなった娘に瓜二つのようで、人違いだと言っても全く信じてもらえない、、、!
そこからは、なんだかんだ丸め込まれ公爵令嬢リリーとして過ごすこととなった。
不思議なことに、私は10歳の時に一度行方不明になったことがあり、加えて、公爵令嬢であったリリーも10歳の誕生日を迎えた朝、屋敷から忽然といなくなったという。
しかも異世界に来てから、度々何かの記憶が頭の中に流れる。それは、まるでリリーの記憶のようで、私とリリーにはどのようなの関係があるのか。
そして、信じられないことに父によると私には婚約者がいるそうで、大混乱。仕事として男性と喋ることはあっても、恋愛をしたことのない私に突然婚約者だなんて絶対無理!
でも、父は婚約者に合わせる気がなく、理由も、「あいつはリリーに会ったら絶対に暴走する。危険だから絶対に会わせない。」と言っていて、意味はわからないが、会わないならそれはそれでラッキー!
しかも、この世界は一妻多夫制であり、リリーはその容貌から多くの人に求婚されていたそう!というか、一妻多夫なんて、前の世界でも聞いたことないですが?!
そこから多くのハプニングに巻き込まれ、その都度魅力的なイケメン達に出会い、この世界で第二の人生を送ることとなる。
私の第二の人生、どうなるの????
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
平凡な私が選ばれるはずがない
ハルイロ
恋愛
私が選ばれるはずはない。
だって両親の期待を裏切った出来損ないなのだから。
ずっとそうやって生きてきた。
それなのに、今更...。
今更、その方は私の前に現れた。
期待してはダメ。
縋ってはいけない。
私はもう諦めたのだから。
ある国の片田舎に、異能者の番となる特別な印を持った少女がいた。
しかし、その少女にはいつまで経っても迎えは来なかった。
両親に虐げられ、奴隷にまで落ちた少女は、全てを諦めながら残された人生を生きる。
自分を助けてくれた優しい人達に感謝しながら。
そんなある日、彼女は出会ってしまった。
彼女を切り捨てた美しい番と。
他視点あり
なろうでも連載中
運命は、手に入れられなかったけれど
夕立悠理
恋愛
竜王の運命。……それは、アドルリア王国の王である竜王の唯一の妃を指す。
けれど、ラファリアは、運命に選ばれなかった。選ばれたのはラファリアの友人のマーガレットだった。
愛し合う竜王レガレスとマーガレットをこれ以上見ていられなくなったラファリアは、城を出ることにする。
すると、なぜか、王国に繁栄をもたらす聖花の一部が枯れてしまい、竜王レガレスにも不調が出始めーー。
一方、城をでて開放感でいっぱいのラファリアは、初めて酒場でお酒を飲み、そこで謎の青年と出会う。
運命を間違えてしまった竜王レガレスと、腕のいい花奏師のラファリアと、謎の青年(魔王)との、運命をめぐる恋の話。
※カクヨム様でも連載しています。
そちらが一番早いです。
【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る
紺
恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。
父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。
5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。
基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。
英雄になった夫が妻子と帰還するそうです
白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。
愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。
好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。
今、目の前にいる人は誰なのだろう?
ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。
珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥)
ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる