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5: 彼女の詳細

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イオンウーウァ・フォレスト。サピエン国の窓際地方文官の一人だったフォレスト男爵の三男トラーチェ・フォレストと同じ様な男爵家次女だったライラ・ヴィナグラートととの間に生まれた娘。貴族らしい職や領地は無く、何とか貴族籍だけは維持したほぼ平民。
いくつかの家賃収入と自給自足に近い家庭菜園で暮らしていたようだ。

それが、イオンウーウァが七つの時に乗り合い馬車の事故でイオンウーウァを残して早逝。
本来なら、彼女一人、何処かに引き取られるなり、家賃収入で一人で暮らせる様にするなり、教会なり役人なりが何らかの手を打つモノだが、彼らはイオンウーウァを放置し、家賃収入が上がる筈の家屋はいつの間にか住居者の所有に書き換えられていた。

本来入る筈の収入もなく、七つから放置され、彼女は十年以上、あの村外れで必死に生き残っていたのだ。

小太りで、血色の悪い、かさつきつつも脂ぎった肌。
どうやら、木苺や食べれる山野草等で食い繋いでいたらしい。

中でも油の実という油分をたっぷり含んだ果実が森に沢山あり、冬も木に付けたまま、もしくは蔵で保存出来る為、この油の実を主食にしていたようだ。

又、食べた後の種を植えた形跡もあるとか。食べた後の皮を乾燥させて薪の着火に使っていた形跡があるとか…。報告書にはイオンウーウァが油の実に支えられて懸命に生きてきた軌跡が綴られていた。

(可哀想に。油の実など、油を採るために採取するが油っぽいだけで美味しくなど無いのに…。)

教会の神父も、彼女の名前を調べるのにえらく時間がかかった。

幼子に対して何もしなかったのかと使用人が問い詰めれば、彼女が信徒とは思わなかった、私は赴任して浅い、この教会に孤児院は併設されていない、など言い訳ばかりだった。

どうやら村長主導での狼藉らしい。

村長の娘で、この度龍人の番となったマリローズが率先してイオンウーウァを虐めていたらしい。

不用品を押し付けては、土下座して感謝することを強要。使っている所を見たら、再び土下座で感謝することを強要していた。

等と書き連ねられた報告書を畳み、どうせ龍人の貢ぎ物で潤ってるんだ、たっぷり毟り取ってやんなさい。と書いた返信を魔法で飛ばし、グーマは又溜め息を吐いた。

(だから番様は小汚なくて、家には小綺麗なものが揃っていて、それらを持っていくのは嫌がったのだな……。)

手続きに時間が掛かるので取った宿、その窓から中庭を見れば、東屋でニコニコとイオンウーウァの髪にブラシを通すラートンと、美味しそうにイチゴのデニッシュを頬張るイオンウーウァが目に入った。

ボサボサにしてる方がマリローズが寄ってこない、と言っていたイオンウーウァの髪は、肌ほどは荒れておらず、時々洗髪時に油の実で洗っていたせいか、ブラッシングする度に美しくなるように思えた。

馬車の中でラートンが嬉しそうに毛先から解し出した途端、メキメキ美しくなり驚いたのを思い出しながら、グーマはゆっくり腰を伸ばした。

(トロい喋り方だと思ったのは、滅多に人と会話しなかったせいで口が上手く動かないらしい。若様がベラベラ喋り掛けるせいか、この3日で大分滑らかに喋れるようになられた。)

トントン、と部屋の扉をノックされ、グーマが返事をする。

どうやら、宿の女将に頼んだイオンウーウァの服や靴、湯の準備が整ったらしい。本当ならもっと早くイオンウーウァにまともな服を着せてやりたかったのだが、ちょっと小太りな為、グーマや使用人達ではイオンウーウァの着れる服がどのサイズなのか判断できなかったのだ。





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