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74: ご令嬢とお喋りをするのは初めてです!

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「……ネ、ネオン、ブレーカー、侯爵ご令息…?」

「……はぁぁ♡…ふぇっ?ハぃ、ハイ!」


もう何度目か判らない、耳に掛かる色っぽいジュリアの吐息を思い出していた俺は、聞き馴染みの無い緊張を孕んだ声で呼び掛けられ、一気に夢から醒めた。何か妙ちきりんな返事になったので慌てて返事し直して声の主を仰ぎ見れば、とても緊張した面持ちのご令嬢が此方を見下ろしていた。
どうやら、俺がぼけっとしてたから、向こうから声をかけさせちゃったみたいだ。慌てて笑顔で挨拶を返す。

「あ、…ラウイ・シルバームーン伯爵令嬢。おはよう。」

そのくりんとしたヘーゼルの瞳とくりくりんとしたマホガニーの巻き毛に、誰だったか思い出して挨拶すれば、血色の良い頬が、ポットと更に赤みを増した。可愛いな。
中位以上の貴族や令嬢令息は大体家庭教師に覚えさせられたのだが、彼女は同じオキナファンだったので、中でも特に良く覚えてる令嬢だ。会話は初めてだけれど……。

「……良く、俺がブレーカーだって判ったね。皆気付いてないのかと思ってたよ~♪」

フルネームで名前を呼ばれて慌てて返事をしたものの、どうやら伯爵令嬢は混乱しているらしい。
何て話し出そうか考えてるような、何だか気まずい沈黙に耐えれなくて俺はヘラヘラ笑って言った。 
幸い、その一言は良い方向に転がったようだった。令嬢がホッと息を吐いて肩の力を少し抜く。

「わ、私も気付いてなかったのですが…叔父様…ぁいえ、叔父から、編入生なら全員の前で紹介されると教わりまして……ぇと、皆、ご令息を編入生だと思い込んでて…その、えっと…。」

「アハハ、うん、うん…。」

どうやら、俺に話し掛ける事に心血全て注いでしまってたらしき令嬢が一生懸命経緯を説明しようとしてくれる。
俺は何だかそれがムズムズと嬉し恥ずかしくて、ニコニコ顔で逐一相槌を打った。

オキナが俺を探していた事、心から心配しているとの事、自分も、俺が急に学園に来なくなったと思って心配していた事。……それから、今までΩだと思ってなくて、礼を欠いていた事を申し訳無く思っていること……。

どうも、俺は今までΩのふりしたβだと思われていたらしい。道理で、見向きもされない訳だ。
というか、俺に話し掛けて欲しいと思っていたご令嬢方はちらほら居たと聞けて、ちょっとだけ、俺の低すぎる自己評価がUPした。嬉しいな♪

「……実は、俺、ちょっと前に恋人が出来たんだよね…♡」

ミルクティー色の髪とライムイエローの瞳の、少し年上の令嬢ってどう思うかと、妙に具体的な人物像の評価を聞いてくる令嬢に、そっと袖を捲ってジュリアとお揃いのブレスレットを見せながら言えば、瞳を綺羅綺羅させて「素敵♪」と呟くご令嬢。

「じゃぁ、姉にはもう恋人がいらっしゃるって伝えておきます。素敵なブレスレットですね、ペアで着けてらっしゃるんですか??お相手は素敵な方?どんな方なんです??素敵な出逢いでしたの?どんな所がお互い好きでいらっしゃるの??」

怒涛の質問ラッシュ!……に埋もれたけど、ミルクティー色の髪とライムイエローの瞳の、少し年上の令嬢ってお姉さんだったのか……。なんて若干気不味く思うも、綺羅綺羅した瞳でコイバナムードを展開する令嬢に釣られて、あっという間に俺もコイバナモード全開フルスロットル!

「そうなんだ♪初デートの記念にね♡ペアでアクセサリー着けるの、カップルの定番で、俺、憧れてたんだー♡」

「いいな~♡素敵です~♡♡ペアのアクセサリーは私も憧れです!いつか……ぁぁ♡」

「……いつか、オキナ・タカサゴとペアのアクセサリーを?」

うっとり夢みる様に呟く令嬢にオキナの名前を出して続ければ、ボン!と音でも聞こえるかと思うほど勢い良く真っ赤になる。
アハハ、可愛いなぁ。オキナの事、本当に好きなんだな……。俺は最古参だったけど、令嬢も中々古参のオキナファンだったんだよね。

あの頃の俺を見ているようで、何だか令嬢の反応の全てが懐かしく、可愛く感じた俺は、あっという間に彼女と打ち解けた。

「その、今はもう、オキナ様へのお気持ちは……。」

「あんだけ追い掛け回しといて、随分身勝手だとは我ながら思うけど、…今は俺、彼氏一筋で超幸せな日々なんだ♪」

「まぁぁ♡いわゆる"アツアツ"なんですね??素敵…♡」

自由恋愛を楽しむ踊り子達と違い、婚約等に縛られる貴族令嬢特有の(ちょっと古い恋愛小説の読み過ぎな気もするけど…。)初々しさと夢見がちな反応を見せる彼女とのお喋りは、令嬢令息達の茶会に顔を出していた頃の俺が夢見たモノそのもので、教授がやって来たのも気付かない位俺達は夢中でお喋りした。

「…い、おい…!お二方…!教授来たってば…!!」

「あらっ!それではネオン様、又後で…!」

「はゎゎゎ。うん、ラウイ令嬢、また後でね…♪」

オボロ達が、喋る事に夢中で呼んでも中々気付かない俺達の真ん中に焦った様に割り入って声を掛けてくれる。
それに驚き、手を振って又後で、と別れる俺達はすっかり仲良しで。

こうしてラウイ・シルバームーン伯爵令嬢は、貴族令嬢で初めて、俺のお友達になった。


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