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67: とある三女の名?推理。

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「それで、随分と話を脱線させてしまったけど、オキナ君はどうして元気がないんだい?」

こほん、と軽く咳払いしてモモタウロが問えば、そうだった、と三女が顔を上げた。

「そうなの!元気がないのよ!…ほら、そのブレーカー令息がずっと傍に居てたのだけどね、ある日突然見掛けなくなって、どうしたのかな、なんてオキナ様、彼を心配されてたのよ」

「ほうほう。」

オキナ・タカサゴ君はタウンハウスがブレーカー家とお隣だよね、聞いてる限り幼馴染みでネオン君と親しいみたいだけど、彼はどうして…とまで考えてモモタウロは頭からその考えを追い出した。

(子供に罪はない。ifは考えるだけ無駄!)

それより、三女の悩み(なのかオキナ君の悩みなのか…)を聞こう。
もしかしたら何か役立てる事があるかもしれない。

そう思い直してモモタウロはそっとココアを啜って三女の説明に集中した。

「……それで、オキナ様がね、ブレーカー令息が学校に来てないって心配されてて…。でも、余り大人の方には相談されたくないみたいで。内緒で探してる様な感じだったの。」

(おっと、どうやら叔父さんは大人の数には入って無いようだぞ…?)

一抹の衝撃を受けつつ、モモタウロは静かに先を促した。

「それでね、私、少しでも役に立ちたくて、婚約を考えてる振りして、教授達に出席状況とか成績とかを聞いてみたの。ほら、休んだ日の課題は郵送で出したりするでしょ?だから、もしかしたら住所を見れるかもって思ったの。
あ、あのね、ブレーカー令息は一人暮らしされてるらしいんだけど、いつもオキナ様が行くとお留守なんですって。だから、別の所に滞在してるんじゃないかなって…思ってね?」

(ぇえ?いつも留守で別の所に滞在してるって発想に直ぐになるかな?……何だか怪しい。
繁華街に一人暮らししてるって聞いてたけど、もしかして、オキナ君はそこにネオン君が住んでない事を知って密かに探してるとかじゃない…?うう、心配だなぁ~。)

内心ドキドキしながら、モモタウロは悠然と先を促した。四女がゴクリ、と音を立ててココアを飲む。

「そしたらね、真面目で優秀な生徒ですよって。先生達皆。しかも、最近は又少し成績が上がってるって。
私、信じられなくて。それでね、言ったの。実は最近彼を学校で見てないんです!って。それで婚約の打診を迷ってるんですって。」

まさか、婚約の打診を盾に聞き出すとは、十代の行動力って凄いなぁ…と半ば感心しつつモモタウロは相槌を打った。
三女はふんすふんすと鼻息荒く続ける。

「そしたらね、彼はちゃんと授業に来てますよ、勘違いじゃないかな?ってどの先生も言うのよ!
郵送じゃなくて、ちゃんとその日の授業内課題やテストも受けてますよって。
私、絶対誰かに身代わり頼んでるんだと思ってね、来なくなる前と来なくなった後の筆跡を比べたの!そしたらそっくり同じで…。どの授業もよ!全部!全部同じ筆跡!信じられる??ブレーカー令息はずっと前から身代わりに課題を提出させてたのよ!」

ふんー!と怒りの鼻息で締めくくり、三女はぬるくなったココアをゴクゴクと飲み干した。

「まぁ、なんて事なの…。」「わぁ。」「へぇ……?」

次女、四女、長女から、三者三様の反応が洩れる。
それに勢い付いて三女は更に続けた。

「そうなの!ブレーカー令息ってば、不良だったのよ!……それなのに、オキナ様はΩって噂を聞いて色めきたってた令息達に自分が婚約するつもりだから釣書送るな!って。でね、何とかブレーカー令息と連絡取ろうと、最近は毎日繁華街に、見回りの振りして探しに行ってるのよ!
きっと、そんな事も知らないでブレーカー令息は毎日放蕩三昧なのだわ!学業なんかそっちのけで、きっと、毎日お酒と娼婦に溺れた爛れた生活を送ってるのだわ!ううん、きっと今頃肺病を病んでて……!!」

「それ、こないだの劇に出てきた……「シッ!シーよ、シー!」

長女が思わず、と言った口振りで指摘しかけ、次女に止められる。
余りの飛躍に呆気に取られていたモモタウロは、それを見てゆっくりと深呼吸しながら言葉を組み立てた。

こんな時に姪っ子達をなるべく傷付けずに現実に引き戻すのは、何時だって叔父の役目だったからだ。

(どうしてあのヒントで、こんな解答に行き当たるんだろう。十代の思考回路って時々摩訶不思議だよね…。)

自分も少年時代はこんな感じだったのだろうか、なんて考えながら、モモタウロはゆっくりと三女に微笑みかけた。

「オキナ君に少しでも元気に取り戻して欲しくて、頑張ったんだね…。」

三女が目を潤ませながらウンウンと頷く。

「でも、取り敢えず肺病は大丈夫だと思うよ?最近は医療も医療魔術も発達してるからね…。後、…後ね、叔父さんが思うに、ネオン君も不良じゃないんじゃないかなぁ…。」

モモタウロの言葉に不思議そうに首を傾げる三女。
己の推理を微塵も疑っていないのだろう澄んだ瞳に、少しだけモモタウロは苦笑する。

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