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66: とある人気者子爵の犯人捜し。
しおりを挟むモモタウロは静かに考えた。
少年少女の茶会に居るのは年端もいかない子供達ばかり。
皆ルール通りに、行儀良く、良い子であろうと頑張っている中で、ルールを破って声を掛けるなんて中々出来る事じゃない。
オキナ君は声を掛けなかったのかな、とか、昔の僕みたいに、見目に余り自信無い子が雰囲気を和やかにする使命感で全員に声を掛ける、なんて良くあったけど、そう言う子も声を掛けなかったのかな…?とか、思う事は沢山あったけれど、子供達に罪は無いと考えることを止め、モモタウロはそっと唇を人差し指で撫でた。
そもそもの原因は違うところにある筈だ、と。
「んー……ネオン君はカラーを着けて、カウンターではなくテーブルに座ったんだよね?それなのに、どうして皆彼をΩだと思わなかったのかな?」
モモタウロの疑問に、次女と三女が顔を見合わす。余り詳細は覚えていないのかもしれない。少し年の離れた四女は先程から蚊帳の外で、面白そうに話を聴きながらココアを飲んでいる。
「それは、付き添いが居なかったからよ。」
長女が、私は覚えてるわ、と胸を張って言った。
「令嬢やΩ令息は皆、誰か年上の令嬢やΩ令息に付き添って貰って、その人に紹介されて席に着くのよ。なのに、彼は令息達みたいに一人で入ってきてテーブルの端に座ったの。」
ぁぁぁ、目に浮かぶ様だ、とモモタウロは心の中で嘆息した。
(αとαから生まれたαとしか結婚しないブレーカー家門や幾つかの家門、皆一人で入場してカウンターに向かってたっけ。令嬢も令息も。確か、β令嬢もα令嬢みたいな顔してカウンターに凭れてた…。多分、そんなノリでΩだからテーブルに行かせれば良いと思ったんだな。きっと教育係も知らなかったんだろう。)
モモタウロも知らなかった。きっと、婦人や娘達は皆知っているのだろう。令嬢やΩ令息達だけに連綿と受け継がれてきた文化が有ったのだ。
そして、長女の話は続く。
「しかも、婚約者がいるΩ令息の隣に座ったのよ。だから、その子はずっと横を向いてブレーカー令息が話し掛けても無視したの。向かいの子も、婚約者がいるから話し掛けられても答えなかった。
……彼がΩだったなら、マナー違反じゃないけど、彼って、背も高くて…背筋がピン!てしててね、手も剣の練習で荒れてるし、αには見えなかったけど、αよりのβって感じで。
………私はずっと、話し掛けて欲しくて見てたけど…其処から先は諦めたのか、ブレーカー令息はずっとカウンターの方ばかり見て…次からは一人で空いてるテーブルに座るようになっちゃった…。」
(ファァァ!!泣いちゃダメ!泣いちゃダメだ!ハムシー泣いちゃダメだ!!)
もし自分や娘が同じ目に遭ったら…と一瞬考えてしまい、モモタウロは泣きそうになったが、此処で泣いたらそれでなくても罪悪感に苛まれているであろう姪っ子達を更に傷付けてしまう。と、太い太腿を芋虫の指でこれでもかとつねり、数字を頭の中で倍にして行き、舌と頬の内側を噛んでギュッッと耐えた。
ごくり、と少しぬるくなった激甘ココアを飲み、心を落ち着かせる。
「……ふぅ。なるほど、だから皆、彼の事をΩの振りしたβだと思ってたんだねぇ……。」
苦労の甲斐あっていつもの微笑みを浮かべたモモタウロに、姪っ子達が何処かホッとした顔で頷く。
そして、ブレーカー侯爵はこの事を知らないんだな…知らせて置いた方が良いよね。と心の中で呟きながら、モモタウロは痛む太腿をそっとさすった。
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