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50: 長くて楽しい1日。俺はきっとこの日を一生忘れないだろう。

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「うおー!凄い!祭りだー!!」

思わず興奮して叫んでしまった。
だって、目の前には屋台屋台屋台……。あっちの通りも、こっちの通りも、ずらーーっと屋台!!
宵闇の中、まるで此処だけ昼間みたいに明るく輝いている。

昼間に準備している所を、ジュリアと一緒に海岸からヨットに乗った俺は全然見てなくて。
お陰でいきなりこのキラキラ屋台ロードを見たもんだから、今、感動と興奮がヤバい。

「どうする?順に見て回ろうか。」

漁火に使用する灯火をこれでもかとぶら下げて燦然と客を呼び込む屋台群を眩しそうに見詰めてジュリアが言う。

「うん、じゃぁ、右手の法則で行かないか?」

それに俺がワクワクしながら応えると、

「此処は左側通行だ。左手の法則で行こう♪」

なんて笑ってジュリアが腕を差し出してくる。
俺ももう、慣れたもので、さっとその腕に掴まって歩きだす。

まだどうしてもこういう時、頬が赤くなってしまうが、きっとこの眩ゆい灯火と人いきれのせいだと思われる筈…。なんて自分を誤魔化して、俺は屋台を眺めた。

「ネオン!怪獣ステーキって書いてあるぞ!」

「違うよ、あれは海獣ステーキだ、ジュリア。でも食べたい!」

ちょっと読み間違えてるジュリアに訂正しつつ、俺が屋台に向かえば、後ろで凄い勢いで甘味串を購入しながらジュリアが問い返してくる。

「海獣……?クラーケンとかセイレーンとかか??」

「それは魔物では…?」

ジュリアの国では海の獣って扱いなのか?

ぞろぞろとそぞろ歩く人々に歩調を合わせつつ、他の屋台を眺めながら言えば、そっと俺を他の人から守りつつ、ジュリアがニコニコ笑う。

「セイレーンの肉は不老長寿の縁起物なんだろう??」

「違うよ、それは東の方の魚人伝説だよ!」

祭りで縁起物と来れば、絶対食べなきゃだなぁ♪と嬉しそうに笑うジュリアに苺飴とやらを貰いながら訂正するが、喧騒に紛れて聞こえないのか、イマイチ伝わった感触を得られない。

誤解を解かなくては、と焦ったが、人ごみを掻き分けて辿り着いた先の海獣ステーキ屋台にはなんと、クラーケン足、セイレーン、マーマン、ケルピーの文字が。

「さぁさぁ、縁起物のセイレーン、マーマンはいかが??美味しいクラーケン!美味しいケルピー!ソース掛け放題だよー!」

「……ぇ?もしかして、ジュリアと同郷とか??」

次々とセイレーンステーキとかマーマンステーキを買い求める客に、俺の中の海獣という分類知識がガラガラと崩壊していく。

「ハイハイ、こっちの海獣ステーキ串も縁起物ばかり!これを食べれば無病息災家内安全交通安全百楽長寿!ケルピーも良いが大ウミブタやウミヒョウも美味しいよ!さぁさぁ七色の薬味を漬け込んだ秘伝のタレ味!さぁさぁ!」

海獣を食べるのは初耳だったが、俺の知ってる海獣の屋台もあったようで、香ばしい匂いに食欲が刺激される。

「ネオン、これ食べたら片っ端から食べてみようぜ!」

俺が一粒ずつ食べた後の苺飴やら葡萄飴を齧り、楽しそうに言うジュリアに俺も頷く。

前菜が飴がけの果物で、その次に肉を食べるって何だか非日常だな。

なんて思いながら齧った海獣達の肉は、どれも独特の香りがして、でもそれを色んなスパイスでクセになる味に仕上げてあって、俺達は夢中で頬張った。

何処からか聞こえてきた会話が、外国人も多い港町の平民街では、海の魚ではない大型生物をひっくるめて海獣と呼ぶのだと教えてくれる。

その会話にスッキリし、エール片手に様々な貝の網焼き、酒蒸しを楽しみ、生牡蠣大食いチャレンジに参加し、射的に、ダーツに、力自慢ハンマーゲームに、輪投げに…と俺達は遊びまくった。

そして少し空いた胃袋の隙間に色んな魚のカマ焼きや塩焼き、団子汁等を食べ歩き、海の男達御用達の度の強い酒を片っ端から試飲させて貰った。

気がつけば屋台の人ごみが落ち着き、人々はあちこちで座って飲み食いして楽しそうだ。
広場の一角で楽団がテンポの速い曲を奏で、若者達が楽しそうに踊る。

(右に1.2.3…踵爪先踵、くるっと回って左に1.2.3…踵爪先踵ジャンプ…意外とイケそう?)

ダンスは習ったものの、誰からも誘われなくて哀しみの余り練習を辞めて数年、そんな俺でも踊れそうなステップに、思わず食い入るように見詰めてしまう。

「…踊ろうよ、ネオン。」

そんな俺に気付いたのか、ジュリアが優しい声音で誘ってくれた。

「大丈夫、皆酔っ払いだから、下手とか間違えたなんて概念は存在しないよ♪楽しめば良いんだ。」

「概念が存在しない…ああまぁ、確かに…。」

足が縺れて転び掛けても、クスクスキャッキャと盛り上がって逆に良い雰囲気になっていく地元民らしきペアを見ながら、俺はジュリアの言葉に納得した。

(確かに、皆、酔いと音楽に身を任せて楽しんでる…。)

「ご令息、お手をどうぞ。」

なんて言って手を差し出してくるジュリアに、俺も手を出して導かれるままに踊り場に出る。

「うん、楽しもう。」

自分に言い聞かせる様に言い、ジュリアと一緒にステップを踏んでくるりと回る。

酔っ払いがグルグル回るものだから、何度かジュリアや他の人とぶつかったりしたけれど、皆笑って、誰も何も気にしなかった。

時々、カクテルやエールで喉を潤して、何度も何度も踊った。

此処には、令嬢やΩの方から誘ってはいけない、なんてルールは無いようだったので、俺の方から何度も誘った。

此処には、茶会や合同ダンス授業の時の様に、誘われるのを待つしか出来ない俺はいない。
俺の心のままに行動し、それを良しとしてくれる人が、空間があった。

それはとても自由で、幸せで、俺とジュリアはどんどんステップを複雑にして競うように踊り合った。

酔いどれ達のやんややんやと囃し立てる声と手拍子が、まるで祝福の様に聞こえる。

ジュリアは気付いてるだろうか。
"ダンスを連続で二回以上踊るのは、婚約者や伴侶のみ"

俺は密かに想いを込めて、何度も何度もジュリアと踊った。

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