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38: とある夜会、会話は弾み、噂は拡がる。

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「……ブレーカー家にΩですか?βではなく??も、もしや末っ子殿が判定を受けたのですか??」

モモタウロ子爵が知る限り、ブレーカーの家門からはβもごく少数で、Ωが出たなんて末端の末端家でも聞いたことがなかったので、彼ははゎはゎと芋虫みたいな指を蠢かせて驚いた。

「末のソードとストームか??あの子達は二卵性双生児であんなに小さく産まれたとは思えないほど優秀なαの男女だよ。メキメキと頭角を現してきて、場合によっては時期当主は彼等のどちらかにするかも知れない位だ。……そうではなくて、五男が男Ωなんだ。…同世代の茶会なんかにも行ってた筈だがな…?知らないか?変だな…。まぁ兎に角、他の子と同じ教育を受けさせたんだが、どうにもこうにも…要領が悪くてね…未だに自分の嫁ぎ先を見つけられないみたいなんだ…。」

普通は、親が姻戚の利点やらなんやらを考えつつ縁談を組むが、姻戚を余り求めてないブレーカー家は各々に配偶者を決めさせてから当主が申し込むというスタイルだった。

そんな侯爵の言葉に、ふへぇ、流石αだけで形作ってきた家門だなぁ、等と感心したり、αとαからαを輩出する家門は限られてるので縁談が決まりやすい兄弟と比べるのは如何なものか、と思ったり、そもそも、五男がΩって話、今まで聞いたことなかった様な??と考えたり、分厚い脂肪の裏でモモタウロ子爵は色々な事を考えたが全て飲み込んで微笑んだ。

「おやおや、そうなんですか…。きっと慎重に吟味されてるのでしょうね。うちにαが居たら打診する所ですが、残念ながらβとΩしかおりませんからなぁ…。いやぁ、残念!」

「ハハハ!本当に残念だよ…!」

実は先程から周りの貴族達が耳を澄ませており、ブレーカー家との縁を繋げるチャンス!だとか、五男とは誰だ!?そんなΩ居たかな??うちの息子は何故縁談をまだ申し込んでなかったんだ!?と密かに騒いでいたのだが、そんな下々の事にはまるで気付かず、侯爵はピンクゴールドの髪を揺らしておおらかに笑っていた。

「所で、五男というと、そろそろデビュタントですか??」

「ん?……今年で幾つだったかな…?……はっ!こないだオキナ・タカサゴ君がデビュタントには少し早いが、と言って夜会に出ていたな!彼と同い年ということは…むむぅ、ネオンのヤツ、もうすぐデビュタントではないか!それなのに準備の為の予算申請も夜会出席計画も何も来てないぞ……!全く、他の子は皆、何も言わなくとも出来た事があの子はどうして…むむぅ、仕方無い…手紙を送ってみるか…。ありがとう、モモタウロ。よくぞ気付かせてくれた!礼を言うぞ!」

「手紙…?学園には寮から通っているので?」

ブツブツと呟く侯爵に、モモタウロ子爵は不思議そうに問いかけた。男とは言えΩならば寮に入れず自宅から通わせるのが通例だったからだ。しかも、過保護な彼にとっては子と離れて暮らすのは考えられなかった。

「ん?……ああ、学園入学を期に家を出たいというので、学園近くに一人暮らしをさせているんだよ。……そう言えば一人暮らしをしてから会ってないな…。成績はまぁ、要領が悪い子なりには頑張っている様だが…遊び呆けてデビュタントの事を忘れてるのかもしれんなぁ。」

一方、優秀だが独断専行と有言実行を好むαだらけの家門の長、ブレーカー侯爵は、半ば無関心や放置と取られそうな程、子供の好きにさせる家風の為、そんな子爵の心配に泳ぐ瞳にも気付かず、けろりと言い放った。

代々、彼の家門は皆子供の好きなようにさせてきた。その方がαの子供達はは勝手に自分の得意分野を見つけて結果を出せたし、βの子供達は勝手に自分の居場所を見つけて出ていけたからだ。

「………男の子とは言え…Ωでしょ……心配だなぁ…。」

ブレーカー侯爵はαの基準で全部考えちゃうからなぁ…、とモモタウロ子爵は濡れた子犬の様にプルプルと脂肪を揺らして独り言ちた。

ブレーカー侯爵がネオンが12の時に家を出て以来、近況報告だけでネオンの顔を見ていないと知ったら彼は泡を吹いて倒れたかもしれない。

だが、そこまで話は拡がらず、二人の会話はそこから天気の話に代わり、先物予想になり、貿易摩擦の話に変わっていった。

そして、ブレーカー家の五男がΩだという話はさざ波の様に周囲に広がっていった。
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