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22: ジュリア、ヒートに溺れそう。

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その日は突然に来た。

いつも、アイツはまずテルカズヨシダで飯を喰うから、必然と俺もまずテルカズヨシダに行くのだが、その日は、テルカズヨシダに程近い通りで俺の足は止められた。

体の奥から沸き上がる獣欲。
全身の毛穴と瞳孔が開き、毛が逆立つ様な強烈な感覚が快感で、思わず身を任せてしまいたくなる。

"俺のΩだ!俺のΩがヒートだ!孕ませろ!捕まえろ!逃がすな!"

檻に入れられた本能が格子をガタガタ揺すって叫び暴れてる声が聞こえる。

アイツをじっくり口説きたくて、抑制剤を飲んでてもコレとは……!

良くコレで今まで襲われなかったよな。家族はΩらしい教育をしてなかったみたいだし、よっぽど繁華街の奴らが気に入って守ってくれてたんだろう。
考えてみれば、この辺りは俺が良く遊んでた高級店が並ぶ辺りと違い、αがそんなに来ない。

「只のぼろアパートだと思ってたが、ちゃんと考えて選ばれてたんだな……。」

そんな事を独り言ちて、ふと我に返れば、いつの間にかそのぼろアパートの見慣れた扉の前に俺は立っていた。

「はぁ、たまんねぇ……♡」

脳味噌の芯を蕩けさす様な、甘く官能的な香り。
いつものオレンジが強めのフルーティフローラルが弱く、何処かイランイランを感じさせるエキゾチックなフローラルに。深く吸い込まないと感じにくかったズーーンとしたジンジャーやシナモンに近い甘く粉っぽい薫りがいつもより強い。
そして、奥の奥に潜んでた麝香とサンダルウッドもひらひらと躍り出て、俺の本能を掻き乱してくる。
ああああ、めちゃくちゃ良い匂い。俺今溺れてる。フェロモンに俺今溺れてる。

このまま、ラットに入って、アイツを、ネオンを、この手に抱いて、ちんこ突っ込んでガシガシ揺すったらどんだけ気持ちいいだろう…。
ネオンの喘ぐ姿が見たい。啼かせたい。この匂いを鱈腹吸って、あの白い滑らかな体を貪りたい。孕ませたい。何度も、何度でも、一番奥に……。

ボロい扉に額をくっ付けてうっとり目を閉じて匂いに酔いしれる。

どれだけそうしてただろう。
それとも、永遠に感じただけで一瞬だったのか。

俺は念の為に常備してた抑制剤を多めに飲み、それらが効果を発揮するのを待った。

耳をすませば、扉の向こう、すすり泣く様な声が聞こえる。

(寝室じゃなくてソファに居るのか??)

どうして、という思いと、このボロい扉一枚蹴破れば襲える様な所で何をしているんだ、という思いが膨れ上がり、居ても立っても居られなくなった俺は、扉を叩いてしまった。

ダメだ、と叫ぶ理性の手をすり抜け、体が本能のままに動く。

「…ネオン……!俺だ、ジュリアだ!」

口はネオンを呼び、拳はドアを叩く。

ダメだ、そう思うのに……。

ガタリ、とテーブルに何かぶつかった音がして、カチリ、と鍵が開いた。

ああ、ネオン…。どうしてお前はそう無防備なんだ?
ヒート中にαが扉を叩いたからって、鍵を開けるなよ……。

そう思う理性とは裏腹に、俺の体はドアの隙間から中に滑り込み、後ろ手でしっかりと扉に鍵を掛けていた。

「……ネオン、ヒート中にαを部屋に招いちゃダメって、教わらなかったのか……?」

「ぁ……。」

そういう俺の声は酷く掠れていて、そんな俺を見上げるネオンの少しくすんだ青緑の瞳は、綺麗なピンクに色づいた目の縁に彩られ、潤み、途轍もなく扇情的だった。
上気した頬、潤む赤い唇、火照った体……どくり、と大きく俺の心臓が脈打つ。

もーだめ。
今日ばかりは、ネオンの派手派手でゴツゴツな首元のカラーが憎たらしい。

俺は、本能を抑えきれないまま、ネオンをギュッと抱き締める。


強烈なフェロモンが俺を包み込み、俺は骨まで溶けて蕩けた。



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