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06: オキナ・タカサゴです。残念です。
しおりを挟む最初に感じた異変は剣術模擬試合の時だった。
試合が終わればいつも、待ち構えた様にネオン・ブレーカー侯爵子息がタオルと飲み物とちょっとした菓子か軽食と、時々プレゼントを携えてやって来ていた。
それが、なかった。
いつも、彼が来れない時は学園に不似合いな年老いた使用人が彼の代わりにタオルと飲み物と菓子か軽食とプレゼントを差し出してきた。
道でも混んでて代理が遅れているのかと少し待ってみたが、結局代理もネオンも来ることはなく、見かねた友人が貸してくれたタオルで汗を拭う羽目になった。
タオルはしっとり湿っていて、なるべく端っこを使わせて貰ったが、なんともいえない残念な気持ちになった。
それから2日。
我々騎士科は毎日何某かの見学可能授業があるのだが、一昨日だけでなく昨日も今日もネオンは来ず、今は何かを察したらしい見学者が綺麗なハンカチを差し出してくれ、それで汗を拭わせて貰っている。
だが、綺麗な刺繍の施されたハンカチはあっという間にぐっしょりと濡れてしまい、とても残念&申し訳ない気持ちになった。
いつもネオンがタオルと飲み物とちょっとした菓子なんかを用意していたから、俺の応援に来てくれている令嬢やΩの子息達は今飲み食いする前提の物は持ってきておらず、俺はこの3日、水飲み場の水を飲んで凌いだ。
差し入れに貰った厳重に豪華な包装が施された菓子はこんな所で摘まめそうになく、腹がきゅるりと小さく鳴る。残念だ。
そして、学園に入学して五年、初めて飲んだ水飲み場の水は、何だか凄く生温い野生の味がした。とてもとても残念な気持ちになる。
「何だよオキナ、お前のあのΩ臭い側近は休暇でも取ったのか??仕事の穴をそのままにして行くなんて躾がなってないな~。」
令嬢達からプレゼントや差し入れを頂いていると、俺に使用済みタオルを貸してくれた方の友人、ジューニ・ノマキ伯爵令息が声を掛けてきた。
Ω臭い側近とはネオンの事だろう。
ネオンは側近ではなく幼馴染みなんだが、何故かいつも独特のΩフェロモン風香水をプンプンさせていて、それで俺達α子息の群れに突っ込んで来るものだから、友人達からかなり不興を買っていた。
何故あんなにΩを装うのか判らないが、首に派手に鎖とかトゲとかついた派手色カラーを巻き、Ω風香水をプンプンさせ、あの目に痛い色が飛び込んでくる服を着た幼馴染みが居ないことで、こんなに残念な気持ちになる日が来るとは思わなかった。
「あ、ネオンの事か……?さぁ……どうしたんだろうな。」
本当に、どうしたんだろうな。急に居なくなると凄く気になってしまう。
「おいおい、自分の側近の休みを把握してないのか??」
今度は俺に水飲み場を教えてくれた友人、王国騎士団長子息のレツーサ・ハオルチア伯爵令息が驚いたような声をあげる。
いや、側近としてちゃんと雇ってればそうなんだろうけど…。
「いや、側近の様なってだけで本当に側近として雇ってるワケじゃないから、彼には、特に俺に予定を言う義務はないよ…。」
まぁ、そのお陰で今結構困ってるから、来ないなら来ないと連絡とか欲しい気はするが、来たら来たで俺は、こんな連絡要らないとか思いそうなので、この不便は飲み込むべき事象だと思う。
それにしても、どうやら以前、あのΩ臭いヤツは何だと友人達に詰め寄られた際に、側近の様なものだと言ったのだが、彼等の中では側近という事になっていたらしい。
ネオンは俺の側近希望なのか、家としてタカサゴ家と仲良くするように言われてるのか、毎日俺の世話をしに来てくれるが、あのΩぶりっ子を直さない限り、側近として雇い入れる事は出来ない。
……いつかそれに気付いてくれると思いつつ、もうかなりの年月がたってしまった。
何度か忠言したつもりだが、遠回しすぎたか、はたまた、変える気は無かったのか…。
香水のつけ過ぎは時に人を不快にする、とか、Ωのカラーに見える様なモノを着けるのは如何なものか、とか言ってみたりしたが、香水からフローラルみが消えたり、何だか凄いゴテゴテした飾りやレース等が付いた派手色カラーに進化したりしただけで直らない所か悪化したのも、今となっては何だか懐かしかった。
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