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キメラチームの帰還
第17話
しおりを挟むドムさんの酒場に戻ると数人の常連さん達が集まっていました。
「予想よりも到着が遥かに早かったな」
「カナンからこっち、途中の村や町ではあまり稼がずに帰ってきやがったのかな?」
「珍しいこともあるもんだな。何でだろう」
顔を寄せ合い、ひそひそと話し合っています。
ルナシーはいませんが、出入り禁止になったはずのホルマインさんはちゃっかり混じっていました。
話題は間違いなくキメラチームのことでしょう。帰還したことをもう知っているようです。
僕もその輪の中に入っていきました。
「サバラスさんのグループはキメラチームの仲間になるそうですよ」
報告するとみんな顔をしかめます。
「あの野郎、あまりまともな奴じゃねぇとは思っていたが……」
吐き捨てるように言うドムさん。
僕はキメラチームのことを詳しく知りたくて色々と質問してみました。
そして分かったこと。
キメラチームは40数人のグループ。サバラスさん達を加えれば50人に達しそうです。他にも出稼ぎ中に入った新入りがいるかもしれません。
在籍する者の年齢は幅広く、10代から50代まで。数人から始まり2年の間にどんどん増えていったとのこと。
立ち上げたボスはダモンという人で、無敵のストリートファイターとして名を馳せていたといいます。他に幹部は四天王と呼ばれる者達。
この街を貫く大通りの出入り口横。そこの広い敷地に建つ四階建てアパートを占拠して根城にしているそうです。
キントンさんが飛び込んできました。
出勤にしては随分早いなと思ったら血相を変えています。
「せっ、せっ、戦争が始まるわよおおおっ!!」
店内は騒然としました。
「どういうことだ? 説明しろ、キントン」
ドムさんに渡された水を一息に飲み干すと、キントンさんはまくし立て始めます。
「キメラの子達、追われて街に逃げ込んできたのよ! 今、慌てて迎え撃つ準備をしてるの!」
追われて?
「治安隊がようやく動き出したのですね?!」
僕は思わず声を張り上げていました。
「違うわよう! ラミアの一味に目を付けられたのよ!」
キントンさんの返事に、また僕は置いてけぼりにされたような気分になります。
ラミアの一味って??
「ラミアだって!」
「黒風のラミアか……」
店の中の一同は驚愕と困惑の表情。
ラミア一味については知ってて当然のことのようです。
「あ、あのう、今度はラミアについて教えて下さい……」
僕は言いました。
「ぶっちゃけ頭がおかしな連中さぁ」
ホルマインさんが答えてくれます。
「あら、そんなこと言うもんじゃないわ。あの子達は英雄よ」
キントンさんがちょっと憤慨したように口を挟みます。
僕は混乱。
「ラミアは有名な義賊だ。元々一人で活動していた稀代の女怪盗だが、狙うのは強欲な貴族や悪徳商人ばかり。慕って配下にあぶれ者が集まり、今や一味は百人規模の武装集団になってやがる」
ドムさんが簡潔に説明してくれました。
「奴らなぁ、今や各地に点在する王宮用の穀物庫を襲ってやがるんだ。あと宮廷御用達の荷馬車とかなぁ。目茶苦茶だろ」
ホルマインさんが付け加えてくれます。
「その収穫物を貧しい者達に分け与えてくれるんだからいいでしょ! あたし達も何度かお世話になったじゃないのよ」
キントンさんはラミア一味のファンのようです。
「しかし、それとこれとは話は別だ。そのラミア達がこの街に攻めてくるわけなんだろ?」
話を戻すドムさん。
「そうそうそう! そうなのよ! だからキメラチームの連中、通りの入り口を封鎖しようと血眼になってバリケード築いてるのよお!!」
思い出してまた叫び出すキントンさんに、僕は聞きました。
「なぜラミア一味はキメラチームに攻撃を仕掛けてきてるんでしょう?」
「そりゃラミアは一般人を襲う盗賊達を目の敵にしてるからよ。たぶんどっかの町でお仕事中に鉢合わせして逃げてきたんじゃないかしら、キメラは」
「キメラがまっすぐ帰ってきたのはそういうことだろうな」
ドムさんが頷きます。
「ラミアがキメラを叩いてくれるのはありがたいが……戦闘になれば街にも被害が及ぶだろう」
一同は不安そうに顔を見合わせました。
「キメラにしてみりゃ敵の数は倍だね」
常連さんの一人が呟きます。
「ああ、だから籠城戦をやるつもりなんじゃねぇか? 街の入り口で長いこと戦われたら俺たちゃ街の外にも出られんぞ」
ドムさんの言葉に酒場の空気は重く沈み込みました。
街を縦断する通りはドムさんの酒場が終点で、その先は深い森です。
幾つか細い横道はありますが、どの道も街の外に通じているわけではありません。
キメラチームの根城の前の道が、たった一つの街の出入り口なのです。
通りは街を出ると両側が岩肌剥き出しの高い切り立った崖になっています。
街全体がぐるりと崖に囲まれた中の、森の多い平地に作られているのです。
僕は話を聞きながら考えていました。
宮廷による鎮圧は望めないという。
僕はもう王宮とは無関係な人間になったけど、本来なら王族として領内の治安に責任を負うべき立場にあったんだ。
今の宮廷が何もしないなら、せめて王家の血が流れる者として僕は僕にできることを何かやりたい。
争いを止める妙案があるわけではないけど、キメラチームのボスと話して何か解決の糸口を見い出せないものだろうか。
そう、まずは話し合いだ。
キメラと。そして次にラミアと。
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