上 下
17 / 78
キメラチームの帰還

第17話

しおりを挟む

 ドムさんの酒場に戻ると数人の常連さん達が集まっていました。
「予想よりも到着が遥かに早かったな」
「カナンからこっち、途中の村や町ではあまり稼がずに帰ってきやがったのかな?」
「珍しいこともあるもんだな。何でだろう」
 顔を寄せ合い、ひそひそと話し合っています。
 ルナシーはいませんが、出入り禁止になったはずのホルマインさんはちゃっかり混じっていました。
 話題は間違いなくキメラチームのことでしょう。帰還したことをもう知っているようです。
 僕もその輪の中に入っていきました。

「サバラスさんのグループはキメラチームの仲間になるそうですよ」
 報告するとみんな顔をしかめます。
「あの野郎、あまりまともな奴じゃねぇとは思っていたが……」
 吐き捨てるように言うドムさん。

 僕はキメラチームのことを詳しく知りたくて色々と質問してみました。
 そして分かったこと。
 キメラチームは40数人のグループ。サバラスさん達を加えれば50人に達しそうです。他にも出稼ぎ中に入った新入りがいるかもしれません。
 在籍する者の年齢は幅広く、10代から50代まで。数人から始まり2年の間にどんどん増えていったとのこと。
 立ち上げたボスはダモンという人で、無敵のストリートファイターとして名を馳せていたといいます。他に幹部は四天王と呼ばれる者達。
 この街を貫く大通りの出入り口横。そこの広い敷地に建つ四階建てアパートを占拠して根城にしているそうです。

 キントンさんが飛び込んできました。
 出勤にしては随分早いなと思ったら血相を変えています。
「せっ、せっ、戦争が始まるわよおおおっ!!」
 店内は騒然としました。


「どういうことだ? 説明しろ、キントン」
 ドムさんに渡された水を一息に飲み干すと、キントンさんはまくし立て始めます。
「キメラの子達、追われて街に逃げ込んできたのよ! 今、慌てて迎え撃つ準備をしてるの!」
 追われて?
「治安隊がようやく動き出したのですね?!」
 僕は思わず声を張り上げていました。
「違うわよう! ラミアの一味に目を付けられたのよ!」
 キントンさんの返事に、また僕は置いてけぼりにされたような気分になります。
 ラミアの一味って??

「ラミアだって!」
「黒風のラミアか……」
 店の中の一同は驚愕と困惑の表情。
 ラミア一味については知ってて当然のことのようです。
「あ、あのう、今度はラミアについて教えて下さい……」
 僕は言いました。

「ぶっちゃけ頭がおかしな連中さぁ」
 ホルマインさんが答えてくれます。
「あら、そんなこと言うもんじゃないわ。あの子達は英雄よ」
 キントンさんがちょっと憤慨したように口を挟みます。
 僕は混乱。

「ラミアは有名な義賊だ。元々一人で活動していた稀代の女怪盗だが、狙うのは強欲な貴族や悪徳商人ばかり。慕って配下にあぶれ者が集まり、今や一味は百人規模の武装集団になってやがる」
 ドムさんが簡潔に説明してくれました。
「奴らなぁ、今や各地に点在する王宮用の穀物庫を襲ってやがるんだ。あと宮廷御用達の荷馬車とかなぁ。目茶苦茶だろ」
 ホルマインさんが付け加えてくれます。
「その収穫物を貧しい者達に分け与えてくれるんだからいいでしょ! あたし達も何度かお世話になったじゃないのよ」
 キントンさんはラミア一味のファンのようです。

「しかし、それとこれとは話は別だ。そのラミア達がこの街に攻めてくるわけなんだろ?」
 話を戻すドムさん。
「そうそうそう! そうなのよ! だからキメラチームの連中、通りの入り口を封鎖しようと血眼になってバリケード築いてるのよお!!」
 思い出してまた叫び出すキントンさんに、僕は聞きました。
「なぜラミア一味はキメラチームに攻撃を仕掛けてきてるんでしょう?」
「そりゃラミアは一般人を襲う盗賊達を目の敵にしてるからよ。たぶんどっかの町でお仕事中に鉢合わせして逃げてきたんじゃないかしら、キメラは」
「キメラがまっすぐ帰ってきたのはそういうことだろうな」
 ドムさんが頷きます。

「ラミアがキメラを叩いてくれるのはありがたいが……戦闘になれば街にも被害が及ぶだろう」
 一同は不安そうに顔を見合わせました。
「キメラにしてみりゃ敵の数は倍だね」
 常連さんの一人が呟きます。
「ああ、だから籠城戦をやるつもりなんじゃねぇか? 街の入り口で長いこと戦われたら俺たちゃ街の外にも出られんぞ」
 ドムさんの言葉に酒場の空気は重く沈み込みました。

 街を縦断する通りはドムさんの酒場が終点で、その先は深い森です。
 幾つか細い横道はありますが、どの道も街の外に通じているわけではありません。
 キメラチームの根城の前の道が、たった一つの街の出入り口なのです。
 通りは街を出ると両側が岩肌剥き出しの高い切り立った崖になっています。
 街全体がぐるりと崖に囲まれた中の、森の多い平地に作られているのです。


 僕は話を聞きながら考えていました。
 宮廷による鎮圧は望めないという。
 僕はもう王宮とは無関係な人間になったけど、本来なら王族として領内の治安に責任を負うべき立場にあったんだ。
 今の宮廷が何もしないなら、せめて王家の血が流れる者として僕は僕にできることを何かやりたい。
 争いを止める妙案があるわけではないけど、キメラチームのボスと話して何か解決の糸口を見い出せないものだろうか。
 そう、まずは話し合いだ。
 キメラと。そして次にラミアと。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...