キャットイヤーピープル ーあやかし猫ー

見ていた

　トイレで気張る。
　息張いきばる。
　五日ぶりに出そうなのだ。

　腹の中に居座り成長したうんちの先端はもはや巨岩の如く固く大きい。
　息を大きく吸い込んで止め、鍛え上げた腹筋に力を込める。
　巨岩は俺のいたいけな菊の門を中から押し広げ頭を出すも、一気呵成の突破には至らず。
　これが奔流の如く雪崩なだれ出てきた暁には、出口は切れ凄惨なる出血不可避かも知れない。
　それも止むを得まい。
　覚悟を定め、便座の上で全身の筋肉にありったけの力を漲みなぎらせ小刻みに震える俺。

　飼い猫マロンがガリガリとトイレのドアを向こう側から引っ掻き始めた。
　開けろー、入れろーと鳴く。
　いつものことだ。
　だが今は集中させてくれ。

　無視しているとドアノブに飛び付いて回す音。
　ガチャリ、僅かな隙間を作った。
　マロンは隙間に手を差し込んで広げ、むむむと頭を押し込み入って来る。
　開かれるドア。

　マロンの後ろに丁髷ちょんまげに裃かみしも姿のお武家さんが目を剥き立っていた。
「なんと！」
　クワッと口を開く。
「賢いものだな」
　よく通る厳めしい声。
　マロンはびくりと振り向き、毛を逆立てた。
　フシャーッ、と唸る。
「むむ、驚かせたか。すまぬ」
　マロンに頭を下げ、お武家さんは消えた。


　･･････いや、待て。


　違うだろ！
　うんこが途中で止まった俺にまず謝れ！　深く謝れ！！