キャットイヤーピープル ーあやかし猫ー

メアリちゃんは猫が好き

　あの子の名前かい？
　メアリっていうんだ。
　可愛らしい子だろ、なぁ。
　もうすぐ十歳になる。誕生パーティは盛大にやるだろうな。
　あそこに見える大きなお屋敷の子さ。
　俺？　俺は親父さんの部下だよ。

　おっと、まぁ、待て待て。
　落ち着いてちゃんと話を聞けって。
　いいかい？　メアリちゃんはね、猫が大好きなんだ。
　好きで好きでたまらないんだ。
　たぶんあんたなんかよりもずっとな。

　だって、猫のふわふわの毛を撫でていると嫌なことなんか全部忘れてしまえるって言うんだぜ。
　お昼に出た人参の不味さも、前髪を切りすぎてしまったことも。
　そんなの全部ふっ飛んで、あったかな幸福感に包まれ、癒されるんだってさ。
　気持ち分かるだろ？
　なぁ、あんたには分かるさ。

　ただね、メアリちゃんはね、猫の爪は怖いと言う。
　小っちゃな頃に触ろうとして引っ掻かれたことがあるらしいよ。
　それで猫は大好きだけど爪は怖い。
　トラウマってやつだね。

　だから例えば眠っている猫にそっと近づいて背中を撫で始めたとするよ。
　さぁ、幸せタイムのスタートだ、と思うだろ？
　ところが、そうはうまくいかない。
　なんかね、撫でていても今にも猫が目を覚まして引っ掻いてくるんじゃないかって。
　そんな風に考えてビクビクして、心配で気が気じゃないらしいよ、メアリちゃんは。
　それじゃ甘美な喜びに浸れやしないよね？
　嫌な想像の方が勝まさってふわふわの感触も台無しさ。

　だからなんだ。
　だから、彼女は猫達に毒餌をあげてるんだ。

　死んでれば、ほら、爪も怖くないだろ？
　ゆっくり撫でてあげられるだろ？
　いつまでもゆっくり。
　分かるよね。

　メアリちゃんは本当に猫が大好きなのさ。
　とても無邪気で優しい子なんだ。
　いい子だよ。
　あんたの猫も撫でられて喜んでるさ。

　だからさ、変に騒ぎ立てるのは止してくんないかな。
　頼むぜ。