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 ティルトン伯爵家に入った後妻と連れ子の醜聞。そしてエリックの無教養さが露呈された。
 けれど、王太子殿下が婚約者を甘々に溺愛しているという事が貴族達に知れ渡り、空気は穏やかなものに変わろうとしていた。
 その時、貴族達が道を開けるように割れた。
 そこから現れたのは、コルダ侯爵当主。エリックの父親だ。この時になって、やっと姿を見せたという事だ。

「……既に切り捨てるつもりでいたな」

 ポツリと王太子殿下が零した言葉に、私も頷いた。
 多分、教育をし直そうとはしていたのだろう。当主が決めた婚約を自分達で破棄するという愚かさ。コルダ侯爵が首を縦に振る事がなかったという事実が全てを物語っている。

「失礼を致しました。まだ、こやつは我が愚息。我が家で相応の処分を致します」
「父上!?」

 コルダ侯爵は、国王陛下やお父様だけでなく、王太子殿下と私まで全ての視界に入る位置へ来ると、深く頭を下げた。
 その姿や表情には、息子を切り捨てるという覚悟が見て取れた。……私には、まだ子どもがいないけれど……どれだけの決断なのだろうかと思える。しかし、私達は貴族である。一度の間違いが取返しのつかない事になるのは、権力を持っている者達が理解していないといけない。
 罪には相応の罰を。

「来い」
「……」

 コルダ侯爵が敵と認めた相手に見せるだろう、威圧を込めた声と表情に、エリックは言葉を失った。親子だからこそ見たことのない姿だったのだろう。
 二人は割れていく人の波の間を通り、会場から出て行った。

「さぁ、改めよう」

 何とも言えない空気となっていたが、国王陛下が一声かければ、皆それに倣って気持ちを切り替えた。
 私がマーガレット・ティルトンであるという初のお披露目でもあり、皆はお祝いの言葉だけでなく、自己紹介と挨拶も述べてくれた。……中には、何とも言えない顔をしている人達も居たけれど。
 長年続いた、義母やシェリーによるティルトン伯爵家の乗っ取りとも言える行為だったわけで、お父様に怒る権利はないのだけれど、どこか怒りを我慢しているようにも見えた。
 お父様も社交界は久々だというのに。口元は笑っていても、目が笑っていない。……王太子殿下も一部の貴族達には同じ表情をしていたので、言わずもがな、この人達が私の噂を信じていたのだと分かる。……もしくは一緒になって広めていたか。

 そんな初めての社交界。
 挨拶にダンスと、私は完全に疲れ切っていて、出来ればもう二度と出たくないなんて思いながら、泥のように眠りへとついた。
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