43 / 56
43.
しおりを挟む
婚約発表の為に開かれた舞踏会。
人間として貴族の行事に参加するのは初めてだ。朝から磨かれ、王太子殿下の白と青の色をした重い衣装を身にまとう。
……こんな事を毎回しなくてはいけないのかと、うんざり思ったのが分かったのだろう、王太子殿下が首を傾げた。
「何なら、抱きかかえていくけど」
「人としての扱いでお願いします」
以前、猫として参加した時を思い出す。多分、猫としての私に言っているのだろう。いや、絶対そうだ!
残念そうな王太子殿下の腕に手を添えれば、いつもと変わらぬ優しい笑み。だけれど、口元が嬉しそうに綻んでいるのを見れば、私も嬉しさを感じ、胸も熱くなる。
「ショーン・マーティン王太子殿下、並びに御婚約者のマーガレット・ティルトン伯爵令嬢」
名を呼ばれ、王太子殿下と共に入場する……けれど、妙に視線が痛々しいと思えた。
……社交界に出た事がないから?
デビューより先に婚約発表の場だから?
「前を見て」
思わず俯きそうになった私へ、小さい声ながらも、強く芯のこもった声で王太子殿下が放った。しっかりと私の腰を掴む王太子殿下の腕は、胸に抱かれた時と同じように、私へ安心感をもたらしてくれる。
「あの娘が……ほら」
「ティルトン伯爵家のご長女?」
「初めて見たわ……貴族を何だと思っているのかしら」
「件の悪役令嬢……とはね」
影からコソコソと放たれる言葉。だけれど、しっかりとこちらの耳には届く。
「王太子殿下、ご機嫌麗しゅう!」
「私と一曲いかがですか?」
「あら? でしたら私とも……」
陰口を叩くだけでは飽き足らず、図々しくも踊りに誘う令嬢達まで現れる。
えーっと。
これは私に対する挑戦状的なもので良いのかしら。貴族同士の戦いは口撃だけれど、残念ながら私は魔法による攻撃しか出来ない。
クスクスと馬鹿にしたような微笑みを向ける貴族令嬢達に、一部の人間は陰険で陰湿で嫌になるとさえ思える。シェリーと同じような人間は一定数いるという事だ。
「婚約者が居るというのに……?」
威圧を込めた王太子殿下の声に、令嬢達はビクリと身を竦めた。
いつもにこやかに微笑む王太子殿下の目はきつく、一切微笑みを放っていない。
「でも……」
「だって……ねぇ?」
目の前に居た令嬢達は元気をなくしたものの、言葉を選びながら、チラチラと目線を私へと送りながら、察しろと言わんばかりだ。
「王太子殿下が騙されているだけです!」
そんな中、一際大きな声を放ち、コツコツとヒールの音を鳴らしながら向かってきたのは……シェリー。その横にはお義母様と、エリック公爵令息まで居た。
人間として貴族の行事に参加するのは初めてだ。朝から磨かれ、王太子殿下の白と青の色をした重い衣装を身にまとう。
……こんな事を毎回しなくてはいけないのかと、うんざり思ったのが分かったのだろう、王太子殿下が首を傾げた。
「何なら、抱きかかえていくけど」
「人としての扱いでお願いします」
以前、猫として参加した時を思い出す。多分、猫としての私に言っているのだろう。いや、絶対そうだ!
残念そうな王太子殿下の腕に手を添えれば、いつもと変わらぬ優しい笑み。だけれど、口元が嬉しそうに綻んでいるのを見れば、私も嬉しさを感じ、胸も熱くなる。
「ショーン・マーティン王太子殿下、並びに御婚約者のマーガレット・ティルトン伯爵令嬢」
名を呼ばれ、王太子殿下と共に入場する……けれど、妙に視線が痛々しいと思えた。
……社交界に出た事がないから?
デビューより先に婚約発表の場だから?
「前を見て」
思わず俯きそうになった私へ、小さい声ながらも、強く芯のこもった声で王太子殿下が放った。しっかりと私の腰を掴む王太子殿下の腕は、胸に抱かれた時と同じように、私へ安心感をもたらしてくれる。
「あの娘が……ほら」
「ティルトン伯爵家のご長女?」
「初めて見たわ……貴族を何だと思っているのかしら」
「件の悪役令嬢……とはね」
影からコソコソと放たれる言葉。だけれど、しっかりとこちらの耳には届く。
「王太子殿下、ご機嫌麗しゅう!」
「私と一曲いかがですか?」
「あら? でしたら私とも……」
陰口を叩くだけでは飽き足らず、図々しくも踊りに誘う令嬢達まで現れる。
えーっと。
これは私に対する挑戦状的なもので良いのかしら。貴族同士の戦いは口撃だけれど、残念ながら私は魔法による攻撃しか出来ない。
クスクスと馬鹿にしたような微笑みを向ける貴族令嬢達に、一部の人間は陰険で陰湿で嫌になるとさえ思える。シェリーと同じような人間は一定数いるという事だ。
「婚約者が居るというのに……?」
威圧を込めた王太子殿下の声に、令嬢達はビクリと身を竦めた。
いつもにこやかに微笑む王太子殿下の目はきつく、一切微笑みを放っていない。
「でも……」
「だって……ねぇ?」
目の前に居た令嬢達は元気をなくしたものの、言葉を選びながら、チラチラと目線を私へと送りながら、察しろと言わんばかりだ。
「王太子殿下が騙されているだけです!」
そんな中、一際大きな声を放ち、コツコツとヒールの音を鳴らしながら向かってきたのは……シェリー。その横にはお義母様と、エリック公爵令息まで居た。
26
お気に入りに追加
1,536
あなたにおすすめの小説
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
私が悪役令嬢じゃない?そんな事を言われても困ります。
山葵
恋愛
階段から落ちる時に走馬灯の様に頭の中を過去の記憶が蘇る。
あっ…私は、ヒロインを虐める悪役令嬢マリアーナだ…。
大好きな家族の為に、悪役令嬢になんかなりません!
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
「君は運命の相手じゃない」と捨てられました。
音無砂月
恋愛
幼い頃から気心知れた中であり、婚約者でもあるディアモンにある日、「君は運命の相手じゃない」と言われて、一方的に婚約破棄される。
ディアモンは獣人で『運命の番』に出会ってしまったのだ。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
恋愛
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる