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「……自分の口から話す? それとも俺の口から話そうか? ……イル」

 優しく……優しく私に発せられた王太子殿下の声。いつものように、猫の時と同じように……愛しさを込めて呼ばれた名前に、私はシーツから顔を出せば、王太子殿下と目が合った。
 いつもと変わらず、優しく微笑むその顔に、私はホッと安堵の息をついた。
 何故かは分からない……けれど、大丈夫だと。王太子殿下は私をぞんざいに扱わないと。絶対的な信頼がおけた為、私は上半身を起こし、ポツリポツリと話し出した。

 猫の姿で王太子殿下の護衛をしていた事。呪いの事。
 何故そんな事になったのかと訊ねられたら、家を出た事。師匠の事。
 どうして家を出たのか、家に居る時から何故そんな危険な事をしたのかと聞かれたから、婚約破棄の事。そして、家での扱いの事。

 どうして、そんな事を聞くのだろう、と首を傾げながらも、話した。
 だって、家の中での事はお父様もご存じの筈。お父様は聞くにつれ、プルプルと身体を震わせていっているのは、王太子殿下にティルトン伯爵家の恥を知られてしまっているからだろう。
 ……けれど、王太子殿下の言葉的に、ティルトン伯爵家の内部……そして私の事は全部知っていそうな口ぶりだったから今更に思う。王太子殿下が言うか、私が言うかだけの違いだ。

 ――私は愛されず望まれない子なのでしょう。

 それでも、私の口から説明を……と、言葉にした時、お父様はガバッと顔をあげた。その顔は怒りに満ちているのか、顔を真っ赤にして目は血走っている。

「あの……ただの居候風情が!!」
「え?」

 お父様が叫んだ言葉に、私はポカンと口をあけた。
 居候……?誰が?私が?

「私の娘が地味で魔法馬鹿だから婚約破棄だぁ!? コルダ侯爵に抗議してやる! あぁ、その前にすぐ家へ帰って使用人達を一掃しなければ!」
「落ち着いて、ティルトン伯爵」
「呪いに関連する事へと手を染めるなど、居候と言えど伯爵家の汚名! シェリーめ!」

 あ……あれ?
 居候って……シェリー?お父様は養子縁組をしていない……?というか、何故ここまで怒っているの?
 今にも特大な攻撃魔法を放ちそうな勢いで殺気を上げ、憤怒の形相をするお父様など、今まで見た事もない。というか、そもそも会う事自体が珍しい事だったけれど。

「だから家督責任だと言っただろう……その話は後だ。……イル」

 怒りを露わにするお父様に威圧をかける。確かに王太子殿下の部屋で暴れるのは良くない……って、あれ?王太子殿下の部屋……。
 そこへ王太子殿下が私の方へと何故か跪き、私は顔色を真っ青を超え、真っ白へと染め上げた。
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