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 ケイト・ハーバー公爵令息。王弟の三男。
 ……師匠の名前を今更ながらに知った。
 あまりに魔法馬鹿で、気安く接してくるから、あまり気にしなかったとも言える。けれど、考えてみれば王太子殿下にも気安かったのだ。あんな簡単に王太子殿下の私室へ入れるという事は……王族同士だからか。
 今更ながらに納得した私は、思わず俯いた。
 今、私だけが立場が低く、場違いのような感じがしたからだ。
 いっそ、跪いた方が良いのだろうか。

「死んだあとの話をするなんて不敬では?」

 私が視線を床に伏せていれば、師匠が低く怒気のこもった声を出した。
 師匠を見れば、そこには怒りを隠す事なく、自身の兄を睨みつける師匠が居た。

「あの呪いを解くことなど不可能だ」
「……え……」
「どういう事ですか」

 ハーバー公爵令息の言葉に、空気が張り詰める。
 呪いを解く事が出来ない。それはすなわち、死を意味する。
 というより、ハーバー公爵令息は、この呪いを知っている……?
 呆然とする私に、更に怒気が籠った師匠を、公爵令息は満足げに眺めた後、高笑いをした。

「次期国王は俺だ。少し時間をやるが、早く僕の為に尽くせ」

 パタン……と、空しく扉の音が響く。
 ハーバー公爵令息が部屋を出て……から、鳥肌がたった。感情が整理できてきたのか、怒りが芽生えた。それと同時に、悲しさや情けなさまで押し寄せる。

 ――あんな奴が!

 人として問題があると思える発言しかしていない。あんな奴に王太子が務まるもんか!民が許すものか!
 そう思ったところで、血筋や継承順位、後ろ盾で決まっていく。所詮、王弟派も、そこまで頭の良さは考えていないのだろう。

「……十中八九、あいつの仕業でしょう」
「…………」

 必死に感情を抑えたような、師匠の冷たい声が、私の脳内に響くようだ。
 衝撃的……ではない。私も予想できた。
 けれど、あんな奴に!と思う悔しい気持ちや、情けない自分も確実に居るのだ。

「あいつは、馬鹿です」

 師匠はハッキリと断言して言った。

「どうせ呪いの証拠もつかめないと。解呪も出来ないとおごり高ぶっているのでしょう。あいつの周囲を調べ、そこから呪いを特定しましょう」
「はい!」

 怒りで震える。
 悔しくて涙が出る。
 情けなくて落ち込みたくなる。

 けれど、そんな感情を全て押さえて、今はやるべき事をやるそれ以外は忘れるかのように集中して……どこでどういう呪いがかけられたのか調べていく。
 そして、そこで到達したのは、何故か元婚約者であったエリック・コルダ侯爵令息と、義妹のシェリーだった。
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