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 ドアの前に居るだろう護衛以外の気配が離れ、念の為に声を遮断する魔法を部屋にかけると、師匠は真剣な表情で私を見た。

「出来ますか?」
「……やります」

 例え異なるとしても。回復ではなく浄化だとしても。魔法は万能ではないとしても。
 どこかに、似た何かがある筈だ。

 ――絶対に助ける。

 人の姿に戻り、万全の状態で王太子殿下の手を握り、感覚を研ぎ澄まさせ、回復魔法を流してみる。……そして、回復魔法では治せない違和感。これが、呪いか。
 魔法具を作るように、違和感がある所を改良するように。魔法を少しずつ変化させ、状態異常を治すような効果を考えながら魔法を流し続ける。

 ――お父様程ではないかもしれないけれど。
 ――私の全力で。

 師匠がそっと私の首にネックレスをかければ、私の魔法効果が増幅した。……これは、師匠が作った魔法具か。
 なんとなく……なんとなくだけれど、解呪の兆しが見えそうだ。
 回復とは違う、状態異常を治すのも違う、どんどん溢れてくる呪いの根本をぺりぺりとはがすような……だけれど、それより増す呪いの方が早い。
 ならば、呪いを四散させて……させても、させても、根本となるものを引き剥がすまではいかず。

「っ……はぁ……はぁ」
「……今日はそこまでだ……他の方法も考えよう」

 私の力が尽きた。……これが、呪いか。
 私は、結構他の人よりも魔法が使え、その量や威力も桁違いだったと思っていたのに……それでも、か。
 対して効果がなかった事に落ち込み、猫の姿へと戻れば、師匠は私を抱き上げて部屋を出た。
 護衛には、自身の力を使っても及ばなかったと言い。
 ギュッと、師匠の服に爪をたてて、しがみついた。

 ――私は、知っている。

 猫馬鹿で、どうしようもないけれど、執務はしっかり行い、民の為に動く。知恵もあり、視野も広い。対策だって色んな案をポンポンと出してくるのは知っていた。そして、何より優しいのだ。
 誰よりも、何よりも、優しいのだ。猫に対してだけかもしれないけれど。
 弱い物は虐めず、立場に奢らず、権力に縋らず。全てを平等に見て、公平さをもってして正す。
 そんな人が、こんなくだらない継承権争いで亡くなって良い筈がない。
 私は静かに涙を流しながら、師匠の服を濡らしたけれど、師匠は怒る事もなく、ただ優しく私を撫でた。

 ――呪いを解く。

 絶対に。
 そう心に誓い、私は師匠と共に戻った魔法棟で、ただ必死に解呪の方法を調べた。もしかして効果がありそうな魔法具も作れないかと調べた。
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