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 そんな中で、唯一の味方である師匠としか人の姿で接していなかったからこそ……余計に怯えているのか。
 自分の中で答えを探そうとしながらも、逃げるタイミングを見つける為にチラリと王太子殿下へ視線を向ければ、しっかりと目線が絡み合った。

「あれ……?貴女は……」

 ――伯爵令嬢だと気が付かれた!?

 いや、まさか。
 貴族の顔と名前は周知されている事だとしても、私は表舞台に出た事はない。連れ戻されはしない、大丈夫だ。と自分に言い聞かせるも、恐怖で身がすくみ、返事をする声も出ない。

「王太子殿下……女性をあまり睨みつけるものではありませんよ。見て下さい、真っ青になって可哀そうに」
「睨みつけてなどおらん! ……そう思わせたなら、すまなかった」

 助け船を出してくれたのだろう。師匠が呆れたように王太子殿下へ言えば、王太子殿下は焦ったように声を荒げ、こちらに対して申し訳なさそうな視線を投げかける。

「猫ですね。少し応接室でお待ちください。ここは薬品も多いですからね」
「ちょ!? おい!」

 私の方へ一歩足を踏み出した王太子殿下に、ビクリと身を震わせると、師匠は理由をつけて王太子殿下を部屋の外へと出した。……王太子殿下は、何か不満があったようだけれど、確かに此処は薬品など危険な物も多い。

「……大丈夫ですか? 本当に顔色が悪いですよ」
「…………」

 大丈夫です、と言いたいが、うまく言葉が発せられない。

 ――怖かった。

 人と接するのが、こんなに怖くなっているなんて。否、もとから怖かったのを、気力を振り絞って平気な振りをしていただけなのだろうか。もう今となっては分からない……わからないけれど、こんなに恐怖を感じるものなのかと驚いている。
 ……これなら、まだ魔物と対峙している方がマシだと心底思える程だ。

「……猫になって、少しゆっくりしなさい。ね?」

 護衛の仕事をしに行くというのに、ゆっくりとは如何なものだろう。そう思うけれど、人として誰かと対峙するより、いくらか気が楽である事は確かだ。
 私は素早く猫に変化すると、師匠は扉を完全に開けない状態で、私を王太子殿下へ手渡した。
 ……王太子殿下は、室内を何とか覗き見ようとしていたけれど。
 ドキドキと心音が激しい中、私は王太子殿下に抱きかかえられて戻る。その間ずっと王太子殿下は何かを考えているような顔だったが、自室へ戻るとすぐに従者を室内に呼んだ。

「魔法棟にある賢者の部屋に居た女性を調べてくれ」
(!?)

 口から心臓が飛び出るのではないかと思うくらい、心臓が飛び跳ねた。
 賢者の元に居る理由とは?そんな事が王太子殿下の口から放たれていた気がするけれど、私は自分の心音が大きく、あまりの衝撃に脳の処理が追い付かなかったようで、しっかりと言葉を聞き取れなかった。
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