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言い換えるならばストーカー。
記憶にもない見ず知らずの相手からずっと監視されていたようなものなのに、気持ち悪いとか許せないなんて気持ちより、むしろ恥ずかしさが勝る。

「空間の歪みを直す瞬間が一番手薄だから、その時を狙ってコチラに召喚したんだ」

こちらも問答無用の誘拐である。いきなり拉致されたようなものなのに、更に顔が赤くなるのが分かる。
頭の混乱から逃げる為に、舞は本当に必要なものだったんだとか、形が少しずつ変わっているんだとか、そういえば舞を踊れなかったなぁ、なんて事に思考を回避させながらも、自分が今はそこまで舞に固執していない事に気がついた。

「他に生きる意味を見つけてくれたと思って良いのかな?」
「あ……」

そうかもしれない。
生贄の意味が違ったとしても、それが今度は自分に与えられた使命のようなものであり、ロドさんが元気になってくれるなら私としても嬉しい。
誰かの為に何かをする事が当然という感じであったが、今は嬉しいという感情すらある。
人の為に何かをする事は自分が嬉しいからするんだよ、自分に見返りがあるんだよ。だから人の為に何かをするのは自分の為なんだ。
そんな言葉を聞いた時は、嬉しくなくても何かしなきゃいけないでしょ、なんて思っていた。
確かに嫌われたくないからするけれど、今の私は自分の嬉しさがあって行動を起こしている。

「確かに呪いはミオにしか解けないよ……でも嬉しいね」
「……ん?」

ふとした違和感。今までもあった気がする。私は思わずロドさんを見上げた。
私、何も言っていないよね?というのを心の中でだけ呟いて。

「楔の力かな」

にっこりと優しい微笑みで、何でもない事かのようにロドさんが言った。
つまり、現在進行形で心の声もしっかり聞かれているという事で、盗聴以上の事をされているわけだ。
そういえば名乗っても居ない!と今更ながら自己紹介すらしていない事に気がついた。
ニコニコと微笑み続けるロドさんと、額に手を当てて溜息をつくハイルさん。
という事は、今まで心の中で思っていたような自分の醜い部分から何から何まで隠す事なく全て見られていたという訳だ。誰にも言えないような事も、何もかも。
しかも十年前からという長い年月、ずっと。
私が表面上取り繕っていた全てを、ロドさんは分かっていたという事で……

「あ……」

素顔を隠していた何重にも重なる仮面を一気に剥ぎ取られた……というか、剥ぎ取られていたという事実に、またも脳内処理が追いつかなくなった私は、睡眠不足もあった為か、そのまま気を失った。
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