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24.ポピーが居ない

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「え?ポピー居ないの?」

村に着いて真っ先にポピーの元へ向かったら、店に居たのはポピーの両親だけだった。視線を彷徨わせながら、おじさんはしどろもどろと、明日も居ないから会えないと言ってきた。
遠方に果物でも売りに行ったのだろうかと思い、ならば果物を取り寄せる事は出来るのかと尋ねてみたが、それは難しいという言葉が返ってきた。
荷物を運ぶのも大掛かりになってしまうし、それだけの経費と人員をこちらで用意するのも難しい問題だろう。なんてったって男爵でしかない。
そもそもその日収穫するべき果物の量も毎日同じなわけではない。今が旬と言うタイミングで収穫するのだ。
何より一番の問題となるのは、移送している間に果物が痛むだろう事だ。確かに強い衝撃とかがあれば色が変わったりするのは理解出来る。現代日本と違って、道が舗装されているわけでもないし、クッション材のようなものがあるわけでもない。

「ポピーは?いつ帰ってくるの?」
「えっと……しばらくは……旅行に行ってるから」

おかしい。
ポピーが店を放ってどこか遊びに……しかも、そんな日程がハッキリしないような旅行に行くなんて考えられない。
そもそも、まだ十歳のポピーが外に出たところで、盗賊や山賊、破落戸と言った危険が沢山あるのに、それを簡単に許すなんて少し考えられない事だった。
確かに生活の為には、商売や出稼ぎで遠方へ単独行く子どもも居る事には居るけれど、そういう理由でもないようだし、納得がいかない。
そんな私を横に、カローラは果物を色々見ていて、指をさしながら口を開いた。

「これと、これ、それとこれも頂ける?」
「は……はい!」

思わずおじさんを睨みつけていると、カローラの言葉をナイスタイミングと言わんばかりに逃げ出した。納得行かないと思い、頬を膨らませて追いかけようとした私に対して、カローラは扇で頭を叩いてきた。

「人様の家庭事情でしょう。口を挟むものじゃないわ」
「いや、あんたが言うな」

正論だとは思うが、がっつりこっちの事情に関与して、私の存在をバラして教育方針にまで口だしてる人に言われたくないわと思う。
まぁアドバイスな感じで言ってる辺り、見事に周囲を手の上で転がしてる感が否めない。主にアイビーの。

「あら、美味しい!」
「……酸味がある……」

ポピーの目利きではないからか、少しだけ酸味が広がる果物はケーキ作りには良いかもしれないけれど、お菓子の変わりとなる甘い果物を恋しく思いながら、明日は聖地巡りだとテンション高く言うカローラとは正反対に、私の心はどこか寂しさを帯びていた。
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