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第一章

04.神殿へ

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「まさか……勇者というやつか!?」

 王太子の言葉に騒めいていた周囲はピタリと口を噤んで静かになった。かと思えば、次は囁き合うような声が聞こえる。

「勇者とは男性に与えられる?」
「昔の書物には書かれているが……」
「落ち人との記述があったかは……」
「しかし、どこから来たのかもなかった筈」
「間者が紛れ込んだのでは?」
「いや、いきなり現れたのはこの目で確かに見た!」
「衣服も異世界のもののようだし……」

 その伝承がどこまで本当なのかも分からないけれど、実際にこうして真と名乗った人は居るのだ。

「聖女と勇者! 此度の落ち人は素晴らしい!」
「落ち着けレイモンド。その話は一旦置いておこう。……書物を調べ直せ」
「はっ」

 国王の言葉で側に居た人達は一礼をした後、各々がどこかへ去って行く。
 まぁ、調べものをしに何処かへ行ったのだろうけれど。
 疑心暗鬼な瞳を向けられている真は、平然とした顔で堂々と立っている。その姿は尊敬すると共に絵のように綺麗で見惚れてしまう。

「まずは贈り人方を休ませてもよろしいでしょうか。いきなり異世界へ来たと言われても混乱しているでしょうし」
「そうだな枢機卿。護衛は明日にでも選別したものを送ろう。何人か見繕ってはいるが、正確な人数が分からなかったのでな」
「分かりました」

 異世界や聖女、贈り人だ神力だの、人知を超えた力で国への貢献だとか……護衛と言われても、ただの監視にしか思えない。捻くれた考えかもしれないが。
 だって、ここには信頼できる人が居ない。否、信頼出来る云々以前に、知っている人すら居ないのだ。
 何が真実で、どれが正解かも分からない。
 国王と話を終えた枢機卿が私達の元までやってきた。

「では神殿へご案内いたします。そこが今後あなた方贈り人の住居となりますので」

 先導するように枢機卿が出口らしき方向へ向かう。

「ちゃんと答えてもらえるんでしょうね」
「明日にでも。まずはゆっくりと身体を休めて下さい」

 恵は悪態をつくように吐き出した。
 元の世界へ返せ、という言葉に対しての答えは一切返ってきていないからだ。

 ――帰れるのだろうか。

 まだ少しだけ残る痛み。
 理沙の残した跡に、私はそっと手を当て枢機卿の後について豪華な馬車へ乗せられ移動した。
 着いた先は遺産となっているような石造りの神殿。
 案内された部屋は一体何畳あるのだという程に広く、家具も揃っている。驚いたのは天蓋がついたベッドで、今時ラブホにもないのではないかと思ったけれど、私は大人しくそこで休む事にした。
 ……他にベッドはないし。
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