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第一章

01.異世界へと落ちる

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 ……闘技場?
 見える風景から最初に思ったのは、そんな事だった。
 荒れた土。その周囲を囲むように観客席のようなものが円状に組まれており、そこには大勢の人が居てこちらを見ていた。

「贈り人が現れた!」

 正面にある一際豪華な場所から声があがる。
 それと同時に回りの人達も身を乗り出してこちらを見ているのだけれど……全てが異様だった。
 石造りの建物。周囲の人達が来ているのはドレスや襟のあるコートのようなものだけれど、現代で着られているようなものではない。
 そう……言ってしまえば中世時代のとある国だ。

「何が……」

 ぽそりと呟きながら、私は自分の身に起こった事を思い起こす。





 ――バシンッ!

 耳元で鳴った大きな音と痺れるような痛みで、自分の頬が平手打ちされたのだと気づく。
 咄嗟の事に対しては、脳が追い付かないのか、一瞬理解が遅れるというのはこういう事か。
 あまりの事に対して妙に冷静な自分が、目の前に居る相手へとゆっくり視線を向けた。

「瑞希、いい加減にしてよ!」

 目に涙を浮かべて私を睨みつけているのは、親友である榎本理沙だ。

「瑞希が辛いのは知ってる。悲しみが早々癒えないのだってわかるよ!? でも、一緒に居ても全く笑ってもらえない私の気持ちも分かる!? 少しは前を向いてよ! ネガティブすぎるよ!」
「……」

 理沙の悲痛な叫びに、私は返す言葉が見つからない。
 全ては事実で、前からずっと言われていた事でもあるからだ。
 今日も放課後に中庭へ呼び出された時から、この話ではあると思ってはいたけれど……まさかの平手打ちから始まるとは予想外だった。
 私はそこまで理沙を怒らせていたのか。

「心配で仕方ないのに……」

 消え入るような声で言う理沙に、私の心は罪悪感で痛む。
 心配からくる怒り。それはどれだけ私の事を考え思ってくれていたのだろう。
 だけれど、どうしても……心の傷はまだ癒えないのだ。

「もう瑞希なんて知らない!」

 理沙は溢れている涙を拭う事もなく、背を向けて駆けて行く。
 私が変わらないと関係回復なんて難しいのは分かっている。もう呆れられたのだろう。
 私から離れた方が良いのではないかと心のどこかで思うものの、悲しんでいる理沙をこのまま放っておく事も出来ない。

 ――ただ一人残された、私の大事な人だからだ。

「理沙っ」

 遠のいて行く親友を追いかけようと、声をかけて一歩踏み出した瞬間だった。
 いきなり浮遊感が起こり、私は落下するような感覚にただ身を任せるしかなかった。

「……瑞希……?」

 理沙の声がかすかに耳へと届く中、私の視界は急に闇へと飲まれた。
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