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17.後悔と絶望と

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「いやぁああああああ!!!!!」

アリスは叫びながら飛び起きた。全身汗が流れていて、酷い悪夢を見ていたのだろうと分かる。

「嘘よ……嘘……嘘よ!!」

震える声で消え入るような否定の言葉を呟くが、最後は泣きじゃくるかのように叫ぶ。
寝巻きのまま、震える足でマリアの部屋へ駆ける。

「アリス様!?」

すれ違った侍女が何事かと追いかけてくる。ストールを持って走ってくる侍女も居る。
みっともない格好だと分かっているけど、確かめずにはいられない。
扉が開いているマリアの部屋に入ると、そこにはお父様とお母様も居た。二人とも寝巻き姿で、起きてすぐにマリアの部屋に来たのだろう。

「……アリスか……」

力なく呟く父は、マリアの部屋にあるクローゼットや宝石箱の中を見て呆然としている。
側には泣き崩れているマリア付きの侍女が居た。

「新しいものは…?新しいものはないの!?」

侍女に詰め寄る母に対し、涙を流しながらも侍女はありませんと呟いた。
そして、これを……と手紙を渡していた。そこにはマリアの字で全てを孤児院のバザーへ寄付するという旨が書かれていた。
ふらふらと父は本棚に近づき鍵を見つけると机の引き出しに鍵を差し入れた。

「そこには……!」
「アリスもか……」

驚き声をあげた私に、父はそれだけ呟くと、一冊のノートを取り出した。
それは…………夢に見た通りのノートで。その通りならば、その中身は……マリアの日記。

「あ……あぁ……」

声が……掠れる。
夢の中では私がマリアの視線で。
言っても言っても言っても、何も伝わらない。
自分の意思で選んだ物は何もなくて、全部姉に押し付けられたお古で。
自分の意見も通らなくて、言葉が全て不要のもので。
表情も感情も消えてなくなるようで、存在すら分からなくなって、闇の中を這いつくばっているような……生きているか死んでいるかも分からない。自我もわからなくなるような迷路。

「なんて……ことを……」

父は日記を読みながら涙した。
母も私と同じで声が出にくいのか、口をパクパクさせて髪を掻き毟っている。

「あの夢は……神からなのか……」

両親もマリアの夢を見ていたのだろう。
声が出ぬまま叫んだように崩れ落ちる母。
違う!違う!!違うのに!!!
私は声を出せなくて、自分の喉を掻き毟る。
大事な妹だった!こんなつもりはなかった!大切だった!!
良かれと思ってした事でも……マリアの視点ではこんな気持ちだったのか!
今更しても遅い後悔に打ちひしがれた。
どうして……もっと早く気がつかなかったのだろう……
どうして……寄り添う事が出来なかったのだろう……
こんな絶望を抱えながら、これから生きていかなくてはいけないのか——
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