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「……智子、本当に大丈夫なの? 無理して頑張らなくても……」

 夜食を持ってきたお母さんが心配そうに言うけれど、私は笑顔で答えた。

「大丈夫。私がやりたいだけだから」
「けど、歌は……」
「歌も続ける」

 お母さんは相変わらず心配性とでも言うのか。歌と勉強の両立で私が身体を壊さないか心配のようだ。

「これは、歌にも繋がる事なの。……英語の歌詞でもきちんと歌えるように」

 私は、外国語学部への進学を決めた。留学もしてみたい。
 英語の歌詞を歌う時、どうしてもうまく歌えないのだ。というか、自分で納得出来ていない。
 だからこその選択肢で……また、歌以外の逃げ道でもある。

「……無理はしないでね」

 私のブレない部分を垣間見たのか、お母さんは、自分の出来る事で応援すると言って部屋から出ていった。
 ……その心が嬉しくて、有難い。

 ――あれから、私は連Pさんの歌を出した。

 だからと言って、何かが変わったわけでもない。否、変わったのか?
 登録者は増え、フォロワーも増えた。収益化に関しては母の許可を得て、する事が出来た。
 でも、それは一瞬で、今は緩やかに減ってはいる。増えたりもするけれど。
 私は、学業やバイトも楽しんでいるし、歌ばかりではないからだ。それに歌だって、明るいのから暗いのまで……自分が歌いたいと思った歌を歌い続けている。
 ライはこれが得意というものもなければ、定期的に上げられるわけでもないから、まぁ仕方ないとも思う。

「でもまぁ、新曲チェックはしちゃうんだけど」

 勉強中だと言うのに、つい動画配信サイトを見ていれば、数々の歌ってみたや曲が上げられている。少し息抜きにと眺めていれば、明里さんの歌がおすすめに出て来て手を止め、思い出していた。
 一度、話し合おうと連絡をしたけれど無視されたので、違うアカウントを使い配信に入ってみたのだ。
 そこでは……いつもの仲間内で楽しんでいるだけの配信で、私の名前は出さずとも被害者のような口ぶりで悪口を流し、それに同調するリスナー達。
 止めた方が良いと言ってみれば、すぐに締め出されてブロックをされた。
 もはや諦めるしかない。明里さんはそういう人間なのだと。
 別にそれを否定するつもりはない。小さな世界だと思うけれど、好きにすればいい。だってそれは明里さんの人生なのだから。

「いつか……また会う時があれば……」

 明里さんのおかげなのは変わっていないからこそ、その時は良いライバルでありたいと思う。
 お互いに歌を歌い続けている事を願いながら……私は、私の道を私らしく生きていく。

 ――自分の事が大好きだと言えるように。
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