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 久しぶりの我が家。
 ……我が家と言うのも、烏滸がましいのかもしれない。
 そんな風に考えながら、私は家の前で立ち止まり深呼吸をした後、思い切って扉を開けて中に入った。

「……智子!?」

 中から母の悲鳴に近い声が聞こえたと思えば、ドタバタと乱暴な足音まで聞こえた。
 ……怒られるか……それとも殴られるか……。
 恐怖に身体が竦んだが、話し合うのだ立ち向かうんだと、目を瞑って自分に言い聞かせていれば、温かい温もりが身体を被った。

「……無事に戻ってきてくれて良かったっ!」

 耳元で聞こえる声。
 ギュッと締め付けられる力に、私は今、母に抱かれているのだと知る。
 ……それは、どれくらいぶりの事だろうか。
 私が呆然としていれば、ふいに力は弱まり、母が顔を上げた。

「おかえり、智子」

 やつれた顔。
 目の下には隈がくっきりと浮かんでおり、老け込んだように見える。
 そして……目には大粒の涙が止めどなく溢れ流れている。
 ……なんで……なんで?
 私は言う事を聞かずに家を出たのに……。
 母の望む人形になれなかったというのに。

「……ただいま」

 何とも言えない気持ちで、私まで涙が溢れたが、母は涙を流しながらも私の背を擦ってくれる。

「……ひっく……ふぇ……」

 泣きたくないのに涙は次々と溢れ、声まで漏れ始めた。
 もう止まらなくなった私は子どものように泣きじゃくり、母も泣いているのに私をあやすように抱きしめてくれた。





「落ち着いた?」
「……うん」

 母が出してくれたミルクココアを飲みながら、私達は対面に座った。
 お互い、泣きすぎて目が腫れてしまっている。

「……」
「……」

 どちらが話すわけでもなく、無言が続く。
 どう会話を切り出そうか……そう悩んでいたら、母がいきなり頭を下げた。

「ごめんなさい」

 何の謝罪なのか……。
 何に対して言っているのか分からず、私は一瞬呆然としてしまったが、すぐに頭を切り替えた。

「私、歌が好き。好きな事を好きと言って、やりたい」

 ただ、それだけ。
 勉強をするのが悪いとも思っていないけれど、全ての時間を勉強に使うのは、もう嫌だ。
 色んな感情を知って、夢や目標を持って……人生に色んな彩りを添えたいとまで思うようになったのだ。

「……智子の為を思って……というのを免罪符のように使っていたわね……」

 肩を落として落ち込む母。
 確かに私の為だったのだろうけれど、そこに私の意思がなくては、本当に私の為を言えるのだろうか。
 私の為というならば……何をしても良いのだろうか。
 極端な話、そういう事なのだ。
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