上 下
47 / 57

47

しおりを挟む
 一方的に私が話しているだけでは何の解決にもならない。
 それは分かっているけれど、無視をしているのは明里さんだ。
 何かを返してくれればと思いながら、再度口を開こうとした時、バンッ! と戸棚を閉める音と共に、こちらを睨みつける明里さんが見えた。

「ふざけてんの……?」

 やっと明里さんが声を放ったかと思えば、憎悪に満ちた震える声。

「こっちは何年かけてやってると思ってるわけ!? ろくに稼げてもないような無名の分際で! 誰のおかげで歌を知って上げられてると思ってんの!? MIXまでしてやってんのにさ!」

 言葉の端々に見られる、私への見下し。
 明里さんには確かにお世話になっているし、色々教えてもらった。好意に甘えてMIXをしてもらったのも確かだ。でも……そこまで言われる程なのか。そして、ネットを巻き込んで傷つけられる事なのだろうか。

「それは確かに感謝……」
「大体、何の自慢なわけ? 曲提供してもらって私より上にいったとでも言いたかった? 偉そうに言ってんじゃないよ!」

 私の言葉を聞く事なく、明里さんは更に言葉を続けた。
 最早ただの被害妄想でしかない。

「私はただ……」
「良い子ちゃんぶって、人の手柄でのし上がって? 私は悪くないとか言いたいわけ? 調子のってんな! 生意気なんだよ!」

 喜んでもらいたかっただけだ、という言葉は聞いてもらえる事もなく。
 無視されて会話にならなかったと思えば、一方的に罵倒される。

 恩を仇で返した。
 常識を考えろ。
 当たり前の事も出来ない。
 社会にろくに出る事が出来なくて人間関係すらまともに築けない分際で。
 甘ったれで親のすねかじり。
 勉強しか誇れないくせに。
 学校に行かせてもらってる癖に反抗する子ども。

 最早、歌とは関係のない事まで引き合いに出されては、話し合いなんて無理だろうと悟った。
 私という人となりを全て否定されてるだけなのだ。
 自分自身の感情までもがスッと冷めるのが分かった。
 ……明里さんに話は通じない。
 友達だと……ライバルだと思っていたのは私だけだと悟ってしまったのだ。

 ――この人は、こうなのだろう。

 自分が面倒見ていた、つまり自分より下の相手が出来た。
 一緒に楽しんでいるつもりだったけれど、もしかしたら自分より下の相手を作って優越感に浸っていたのかもしれない。
 自分の存在価値を高める道具にされていたのかもしれない。
 予測でしかないけれど、今の明里さんを見てれいればそう思えた。

「……帰るね」
「とっとと帰れ!」

 もはや話は無駄で関係修復なんて出来ないと理解した私は、まとめていた荷物を持って明里さんのアパートから出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

井上キャプテン

S.H.L
青春
チームみんなで坊主になる話

ハッピークリスマス !  

設樂理沙
青春
中学生の頃からずっと一緒だったよね。大切に思っていた人との楽しい日々が この先もずっと続いていけぱいいのに……。 ――――――――――――――――――――――― |松村絢《まつむらあや》 ---大企業勤務 25歳 |堂本海(どうもとかい)  ---商社勤務 25歳 (留年してしまい就職は一年遅れ) 中学の同級生 |渡部佳代子《わたなべかよこ》----絢と海との共通の友達 25歳 |石橋祐二《いしばしゆうじ》---絢の会社での先輩 30歳 |大隈可南子《おおくまかなこ》----海の同期 24歳 海LOVE?     ――― 2024.12.1 再々公開 ―――― 💍 イラストはOBAKERON様 有償画像

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【実話】友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
青春
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...