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 勝ち負けとかではなく、私が歌いたいか歌いたくないかだ。
 私は、歌いたい。
 今は何よりも歌いたいのだ。
 チャンスなんて事より……ただただ、連Pさんの歌を歌いたい。楽しみたい。
 それが生きる気力にすらなるのだから。

「ずっと考えてたでしょう」

 羽柴さんの言葉通り、私は午前の授業中ずっとそんな事を考えていた。
 勿論授業の内容なんて、一切頭に入っていない。
 むしろ、東さんや紺野さんがお弁当を手に机を並べているのを見て、もうお昼なのかと思った程だ。
 それ程までに思考の海へと沈んでいたという事なのだろうけれど……。

「というか、ともっちのスマホずっと鳴ってなかったー?」
「え?」
「光ってたよ~」

 ずっと鞄の中に入れたままのスマホ。
 メールのやり取りをする相手も居なければ、この前のようにDMが送られてくる事自体、滅多にない。
 気のせい、もしくは勘違いではないかと思いながらも、どこかからメールアドレスが漏れて迷惑メールでも来るようになったのか。
 ……なんて、軽い気持ちでスマホを開いてみれば、私は驚き目を見開いた。

「うわ……」
「何それ!?」

 おびただしい数の通知。
 全てはSNSの通知で、私のIDがタグ付けされているようで……画面に表示されている内容だけでも私は吐き気が込み上げた。

『うざい』
『対して歌も上手くないのに』
『コミュ障すぎ』
『調子のってるよね』

 あったのは言葉の暴力……いや、言葉だけではない。数の暴力も加わっている。
 一体、何でいきなり……。

「ともっち! 息吐いて!」
「落ち着いて」

 若干、過呼吸を起こした私に東さんと紺野さんは背中をさすってくれたり、袋を用意してくれたりした。
 ……気持ち悪いって……面倒くさいと思われない事に安堵をして、私は苦しさだけではなく嬉しさも含んで涙を流した。
 そして羽柴さんは難しい顔をしながらスマホを操作していて……その顔はどんどん険しくなっていく。

「……絵里?」

 羽柴さんの状態に気が付いた紺野さんが声をかける。こちらに対してゆっくり振り向く羽柴さんの表情は強張ったままだ。

「どした?」

 羽柴さんは、私の方をチラリと見て唇を固く結ぶ。
 ……私の何かを見つけたのか。
 そう思ったけれど、声を出す事が難しい私は、速く落ち着けと吐く息に集中する。
 東さんと紺野さんも、羽柴さんの様子から今はまだ聞かない方が良いと推測したのだろうか、それ以上聞く事はなく私の背を擦ってくれた。
 ……温かい。
 人の手は、何て温かいのだろう。
 こうして擦ってもらえるだけで、どこか力が貰える気がした。
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