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 気遣う、とは一体何を刺すのだろう。
 さりげない優しさが嬉しい時もあれば、余計なお世話だと感じる時もある。
 それはまるでプレゼントのように……相手の事を考えて選んだ物でも、送られた人が喜ぶか否かは別のもの。
 よく見て、何に気が付けるのか。会話をして、どれだけ糸口を掴めるのか。
 少しずつ……そんな考えになってきたのは、バイトに出て視野を広げたからだと自分でも思える。

「学校だけじゃ学べない……」

 いや、学校でも学べる筈だ。人と人の付き合い方なんて。
 だけれど、それをせず、ただ机に向かって勉強をしているだけでは無理なのだ。
 ちゃんと周りを見て、交流を持って、自分なりに学んでいかないと。
 ガラガラとキャリーケースを引きながら、私は考えをまとめていた。

「明里さん……何て言うかな……」

 キャリーケースの中身は着替えと学校の教科書やノート。塾の参考書等だ。
 バイト先に連絡を入れてみたら、しっかり辞めさせられていた。店長としても親御さんがそう言うのであればと、そのまま退職になってしまった。
 塾に関しては、まだ籍があるみたいだし、学校も同じだろう。そこだけ親にお金を払ってもらうというのも気が引けるのだけれど、行けと強要するのであれば私に関係ないと割り切る。
 親が私のレールを勝手に引く為に払っているお金なのだから。そこに乗るのかどうかは私が決める。

「あれ? 智ちゃん、どうしたの?」

 大きな荷物を持っている私に驚きながら、明里さんはドアを開けてくれた。
 結局……私は何かあると明里さんに助けを求めるしかないのだ。というか、頼れる相手が明里さんしかいない。
 昔に居た友達だって疎遠だし、東さん達とも学校で話すだけで携帯の連絡先すら交換していない位なのだ。
 ……私の生きて来た道とは、一体何なのか……。

「……家出してきちゃった」

 思い切った一言。
 明里さんなら助けてくれると信じているのか、私に不安なんてなくて……ただ、思ったのは人形に成り下がりたくないという思いだけだったのだ。
 だから、家を出た。
 少なくとも、今は母と一緒に居るべきではない。
 落ち着くまででも良い、せめて母に対抗するだけの力というか考えが欲しい。
 このままの自分で居たくない。
 せめぎ合う心で決めた決心にブレる事なんてない私だったのだけれど……。

「えええええ!!!????」
「あ、明里さん! 声! 静かにしないと!」

 明里さんは思った以上に驚いて、目を見開き絶叫をあげた。
 とりあえず……今は夜だ。何とか明里さんを落ち着けようと、私が焦ってしまった。
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