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 いきなり世界が変わったように思える。
 親のレールから下りて、家での勉強を止めて、バイトをして。
 派手な人達とお喋りする。
 歌に出会ってから自分が迷走しているように思うけれど、でも確実にどこか違う自分らしさを確立しようとしている感じだ。
 ……それでも自分らしさというのは分からないけれど。
 それが、一つの後押しのように……「どうでも良い」「どうにかなるのでは」という投げやりな気持ちを持たせつつも、私へ更に一歩を踏み出させる。

「…………」

 歌アプリでの配信。
 この中であれば使える音源があるから、歌えるのだ。
 思い切って配信をしようとSNSで通知し、配信をしてみたのだけれど……誰も来ない。
 緊張がふっと緩むけれど、自分が求められていないのではないかという寂しさも襲う。
 今日は母の帰りが遅い筈。ゆっくり配信できるだろうと部屋でスマホを眺めて、時計を見る。
 あと五分……くらい待って、誰も来なかったら終わろうかな。それか自分一人で歌の練習? それはそれで何か寂しい。
 かと言って、このまま無言で待機するのも厳しい。五分も経っていないけれど、もう諦めて配信を止めようとした時だった。

『こんばんわー』
「あっ! こ……こんばんわ!」

 一人、入室して来てくれた。
 当たり前のように挨拶をするけれど、その後に続く言葉が見つからない。

「……えっと……来てくれて、ありがとうございます」

 まるで一人スピーチの練習をしているみたいだ。
 また一人誰か入ってきたけれど、コメントを打ってくれるわけでもない。
 向こうから話を振ってもらえない限り、私が話さないと、ただ無言の空間が広がってしまうのか。それもそれでプレッシャーになる事を知り、どうしたものかと考えるのだけれど……私に会話の引き出しなんてない。

「……リクエスト、とか。……ありますか?」

 何を話して良いのか分からない私は、歌おうと思った。
 自分の好きな曲をただ歌い続けるのはワンマンにならないだろうか、相手に不快な思いをさせるのではないだろうかと考える。

『なら……古い曲なのですが……分かりますか?』
「あ、ごめんなさい。それは知らなくて……」

 しまった! 聞かなければ良かった!
 そう後悔しても遅い。
 私はそんなに曲を知っているわけでもない。せいぜい知っているとしたら中学までで、それなりに流行っていたような曲ばかり。あと歌ってみたで使われている曲も、まだそこまで覚えていないのだ。

「今、歌ってみたをしたくて色々覚えてはいるのですが……」
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