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——貴方を愛していました——

身分とかではなく。
私への気遣いや、諦めない姿勢や、力強い生命力に。
名前も知らない貴方の事を………

目の前のパレードで美しい笑顔を見せる王太子殿下。
その隣には美しい侯爵令嬢の姿があり、仲睦まじい姿を見せる。
今日は二人の婚姻披露パレードだ。

「じゃあ…お願いね?」

まだ幼い六歳くらいの女の子に頼む。
女の子は小さく頷き、パレードの列へ走っていった。
私はこの恋心を捨てることは出来ないでしょう。
貴方を諦める事は出来ないでしょう。
今もこんなに胸が張り裂けそうなくらいで、息をするのも苦しいくらいで。
これから先、殿下達の話題を嫌でも市井で聞く暮らしは、耐えられそうにない……。
仲睦まじく、子どもも生まれて…お二人が一緒にいる姿を……
考えただけで涙が出てきた。
皆はパレードに夢中で、片隅で泣く私なんて目に入っていない。

「…さようなら…」

私はそう言って、その場を立ち去った。



出会いは数ヶ月前だった。
森の中、猪を狩る為の罠に血まみれで引っかかっている青年を見つけた事が始まりだった。

「少しでも調子は良くなった?」

近くまで近づき、耳元で問いかけると青年は少しだけ顔を動かし頷く。
青年の体は傷だらけで、剣に切られた後もあった。
しかも毒まで盛られていたらしく、体に痺れ等もあるのか、話す事も目を開ける事も…体を起こす事も出来ないのだ。
かろうじて聴力は多少ある程度で、近くで声を出さないと聞き取れないようだった。
ワケありかと思い、森の中にある私の小屋で面倒を見ている。
私は薬師として働いているから、薬草を探すためにも森の中に住んでいる方が都合が良いのだ。
そして森の中を彷徨うに辺り、草木や虫などに悩まされる事も多いので、長いローブを目深に被る癖がついていて、町にまで行くと知らない人には魔女のようだと遠巻きにされている。
身体を横にし、少しずつ流動食のような物をとらせ、毒消しを始め様々な薬を与える。
日が経つにつれ、少しずつ回復していく青年。

「負け…ない…」

ある日、喋れるようになった時に寝言で言った言葉に、胸が締め付けられる思いをした。
助けたい
支えたい

「いつもありがとう。疲れてはいないか?ゆっくりしてくれてかまわない」

聞こえて喋れるようになれば、彼は私へ感謝の言葉を常に口にし、挙句私の体調まで気遣ってくれていた。
自分はまだ満足に動く事すら出来ないのに。
まだ目が見える状態でもないのに。

「早く治してみせる。むざむざ死んでやるものか!」

力強い言葉。
そんな彼に毎日胸が高鳴る思いだった。
ある日、薬草を取りに行って帰ってきたら、彼が水浴びをしていた。
さすがに異性だ。私が体を拭くと言っても、全身拭けるわけでもなく…そして彼の美しい髪と顔が現れていた。
私は思わずフードを更に目深に被った。
自分の顔を曝け出すなんて恥ずかしいと思えたのだ。

「今までありがとう。僕はもう行くよ。戦わなくてはいけない」

彼はこの国の第一王子だと言う。
立太子すると決まった時、視察へ出た時に第二王子の派閥が紛れ込んでいて、毒を盛られた上に雇ったと思われる盗賊に襲われたそうだ。
命からがら逃げ出し、痺れる体を何とか動かし、相手に見つからない為に森の中を彷徨っていたらしい。

「必ず迎えに来る。名前を聞くのはその時までとっておくよ」

笑顔でそう言った彼は、そのまま小屋を出て行った…
王子という立場で迎えに来るなんて出来るのか。
国を背負う立場で、そんな自由はあるのか…
きっと王子にふさわしい令嬢を迎える事になるのではないのか…
そう思うも、愛する心は、どこかで迎えに来てくれる事を期待していたのだろう…

—立太子した第一王子が婚姻するという話を聞くまでは—
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